3月と言うのにまだまだ冷え込む夜の中、セコリ荘支配人にビールを手渡され、ちゃぶ台越しにラフにインタビューさせて頂いたのは、こんがり日焼け肌が健康的な、カスタムTシャツブランドatelier comoptiの遠藤立野さんでした。
とても自然体な雰囲気を感じる方でしたが、お話を聞いていると、これがまた熱い思いの詰まったとんでもないこだわりをお持ちでした。
遠藤さんにとってTシャツって何でしょう
遠藤さんは、Tシャツを「最も身近な外装衣」と考えているそうです。
いつもより少しこだわった自分だけのTシャツを着て、その日1日をハッピーに過ごす。この価値観の提供を大事にしているそうです。
自分だけの特別なものを身に着けて外に出ると気分がいいですよね。
造語“atelier comopti”にこめられた想い
atelier comoptiの「comopti」とは、「combinatorial optimization」(組み合わせ最適化)という、造語です。
atelier comoptiは、良い「素材」「型」「グラフィック」を集めます。
一人ひとりの嗜好に合わせ「組み合わせ最適化」されたTシャツをお届けできるようにという想いからこの名前が付けられました。
無いのであれば作ってやる
さて、遠藤さんがカスタムTシャツを作ろうと思ったキッカケとは何でしょうか。
「いま街中に出回っているTシャツって、プリントが気に入ったのに形が気に入らなかったり、素材が気に入ったのに、プリントが気に入らななかったり、どうしても自分の思い通りのプリントで、素材で、形で、この条件を全てクリアするTシャツって中々ないと思っています。」
そう感じていた事がきっかけであったそうです。
確かにおっしゃる通りです。よくあります。
「数種類の中から自分で好きな柄や素材を選ぶことが出来れば良いと考えてこのサービスを始めました。」
無ければ作る。
近年のIT業界にも共通する遠藤さんのスタートアップ精神を感じました。
選んでいる素材だって、こだわりがあります
オーダー時に複数の素材を選ぶことが出来るこのatelier comoptiなのですが、
もちろん、素材にも遠藤さんのこだわりが満載です。
Tシャツとしてベーシックな素材とカラーのものと、一風変わった素材感のもののバランスを第一に考えて選抜しているそうです。
・ベーシックなものは耐久性と風合いの良さが高いレベルで備わっているもの。
・一風変わった素材感のものは、まずプリントTシャツの素材として世間的にマイナー=面白いもの
これが基準だそうです。
例えば
[カシミヤ混]
[シルクネップ混]
[上質な糸を使って敢えての極厚生地]
などなど。
ただの好き嫌いでは決めていないんです。
もちろんパターンにだって、こだわりがあります
atelier comoptiには3種類のボディが用意されています。
- classical=アメリカの古き良きヴィンテージTシャツに見られる要素を忠実に取り入れた縫製仕様、パターン。
- standard=日本人の体型に合わせて設定した、スタンダードな縫製仕様、サイズ感、パターン。
- radical=より現代的なシルエット。特にタイトにTシャツをお召しになるのを好む方に合わせて設定した縫製仕様、サイズ感、パターン。
Tシャツに対してお客様がもっている様々な嗜好を、この3種類のボディで少しでも広範囲にカバーしたいという思いがあるそうです。
(過度なデザインの入っているTシャツを例外として)
全パターンに共通して言えるのは、
「1枚で着てサマになる」
「身体のラインを綺麗に見せる」
「着ていてストレスを感じさせない」
この条件だそうです。
バランスを取る事が一番難しく、中間点を目指す事こそが最高というエピソードがよくあります。ビジネスをやっていてこのエピソードには実体験として奥深さを感じているのですが、遠藤さんのこの辺りのバランス感覚が素晴らしいなと感じます。
恐るべき、メイドインジャパン
ネット上でカスタムしたTシャツは複数の工場を経て、皆さんに届きます。
縫製は愛知の工場へ。
今までの経験と信頼の中で、腕の確かな縫製工場さんへ 極々小量の数でオーダーを出しているそうです。
愛知の佐々木縫製さんの良さ、すごさはまず第一に技術の高さです。
「多数の工場さんの製品に関わってきましたが、ことTシャツの縫製に関して、右に出る工場さんは無いと思ってます。」
ここまで言い切るほどの絶対の信頼を置いているそうです。
具体的にこのこの縫製工場のすごい点は、縫製箇所にあった運針設定のセンスや、糸調子(縫製部分の強度に関連してきます。)、仕上げの綺麗さなどだそうです。
この工場さんは熟練の日本人の縫製工員さんだけで運営しているそうです。
そして、日本の縫製工場の現状として、諸外国の研修生を雇っている工場がほとんどです。
遠藤さんは続けます。
「外国人がいけないと言っているわけではなく、研修生は短サイクルで入れ替わるので、そんな工場では熟練の縫製工員さんは育ちません。これで胸を張って日本製と言えるでしょうか?」
グサッと来る言葉です。
プリントは仙台の工場へ。
お次の工場のお名前はAZOTHさん。このプリント工場さんへTシャツを1枚1枚発注しています。
こちらもトータルの技術の高さが最大の魅力です。
http://www.azoth-net.jp/
AZOTHさんはグラフィックの企画をクリエイターさんと共に考える機能もお持ちの様で、プリント位置やカラー、プリント技法など、良いモノを作るためのディスカッションを一緒にすることもあるそうです。
こちらのAZOTHさんもかなり気になって来ました…。
ここまでの工程が見えて来ると、旅するTシャツと呼びたくなります。
ただの移動じゃないですから。物流で終わる話ではないですから。
これだけの現場現場でのストーリーが詰まった自分だけのTシャツが、横浜から出発して、愛知県と仙台を旅行して横浜から届く。
なんかものすごいワクワクします。
話は戻りますが、この佐々木縫製さんとAZOTHさんに共通する良さはとにかく、プロフェッショナルな仕事をしてくれるからだそうです。
[恥ずかしいモノを自分の工場から世に出さない]という気概を非常に感じる方々です。
遠藤さんいわく、「日本製の商品の良さは、この気概から生まれると僕は思っています。
より良いモノを作りたいという僕の気持ち、話を真剣に聞いてくれて、同じ温度で商品製作に関わって頂いています。
商品をパッと見た時にかもし出す雰囲気、表情を、業界では[商品の顔(またはツラ)]という言い方をしますが、この工場さんたちが本気で関わってくれた時の商品は圧倒的に顔が違います。」
本当にかっこいい。
まさにTシャツ職人です。
Tシャツの顔は考えた事が無かったです。もうどこまでもついて行きます…。
皆に安すぎと言われる
各生産工場さんと現場レベルでの確かな信頼関係が出来ているからこそ、皆さんが自分の好みでわがままに作ったTシャツがたったの20日以内で手元に届いてしまうんです。
そしてさらに驚くのがその価格です。
これだけ好き勝手に作って、20日以内に届いてしまうのにこの価格…
世の中に出回っている既製品でも遠藤さんのカスタムTシャツ以上の値段のモノなんてざらにあります。
これは普通に考えたらすごい事です。
通常、縫製屋さんとプリント屋さんを別々の場所でお願いするなんてことをしたら、1ヶ月2ヶ月当たり前にかかってしまうのではないでしょうか?
遠藤さんの現場への想い
先ほどご紹介した工場さん等は、普段メディアに取り上げられる事が中々ないと言う事実があります。
遠藤さんはその露出の低さに問題意識をお持ちであり、工場側に働きかけ、その技術の素晴らしさをもっと世間に知ってもらいたくて、工場の様子や技術をご自身のブログへ掲載することで活動を広めようと努力されています。
これも工場の方に結構お願いしてやっとできた事だとか。
一緒に働く方々への配慮や熱い気持ちも忘れない。
妥協しない。
そんな遠藤さんの考え方に僕はもとても共感を覚えました。
ちなみにですが、自分の仕事柄、結構IT寄りの人達が、Webやアプリで、簡単に誰でもカスタムしてTシャツを作れれば…みたいな話で盛り上がっていたのを過去に数回ですが聞いた事あります。
でも、今現在Webで検索してみると分かります。
こんなかっこいいカスタムTを作れるのは間違いなく今atelier comoptiしかありません。
今後もまだまだグラッフィック(Tシャツのプリント柄)も増やして行く予定だそうです。
最後にさりげなく放った遠藤さんの言葉がとても印象的でした。
「モノづくりは間違いなく人なんです。」
このatelier comoptiの商品も、まさにこんな遠藤さんの人柄がとても現れた、ナチュラルでありながらしっかり芯が通っていて、且つファションの要素も併せ持つ絶妙なバランスのTシャツでした。
これからの動きがとても気になる、サーフィンが好きな素敵な遠藤さんでした。
お嫁さんとお子さんが待つ家にさっそうと帰って行かれました。