高岡銅器の新勢力、モメンタムの歴史が始まる

家業へとUターンして2年目。

この頃になると、折井さんは高岡で開催されるデザインやものづくりの勉強会や、型を作る、仕上げるなど鋳物の別の工程を理解するため市の運営するカリキュラムへと通い始めます。

色の事は父親に聞けば分かるけれど、銅器は多種多様な工程に分業してるし、鋳物の作り方ひとつでも色付けが違ったりするそうです。

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こうした学びの場で自分と同世代の悶々としている職人の2代目や学生と出会い、話す中で『何か自分達で高岡銅器の新しいものづくりをやっていかんと』と話がでます。そこでまずはチーム名を作りました。そん時に『モメンタム』って名前ができたんです。

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モメンタムの歴史がこんなところに!どんな意味なんですか?

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はずみ・勢い・勢力って意味です。モメンタムは折井着色所(工場)を拠点にしました。

_MG_3014【高岡にあるモメンタムの工場のフロントです】

勢いで発足し、その後、折井さんは革新的なプロダクトを作るために工場で試行錯誤を重ねます。鋳物(いもの)にしかできない本来の着色の伝統技法に対して、新しい素材での開発に成功します。

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鋳物は溶けた金属を流し込むんですが気泡や不純物が含まれているんですよ。ちなみに銅100%だと、柔らかくて粘り気が強すぎるので仏像とかは作れないんです。合金(真鍮)であれば、適度な硬さがあり、加工もし易い性質を持っています。

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金属の世界でも、素材ごとの特性や、相性があったり大変そうですね。折井さんは鋳物ではなく、金属を薄く延ばした圧延板で商品開発をしたんですよね。

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そうです。銅の圧延板は銅100%です。これでは着色を施すために焼くと、溶けてぐにゃぐにゃになってしまうので、色のバリエーションが限られるというのが業界の定説です。その圧延板をホームセンターで気軽に買ってきて試作してました。

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いくつもの失敗を経て着色に成功したんです。銅板は誰でも買えて、イニシャルコストがかからないことが開発の成功要因のひとつです。この時は『とにかくかっこいいもの作りたい』ってのが一番にありました

伝統への固定観念は必要ない!新商品の開発背景

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この着色法は過去にも存在しなかったんですもんね。どこから着想を得たんですか?

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私が職人になって間もない2〜3年目の話だったので、固定概念が全くなかったのが良かったのかもしれないですね。自分は東京で色々なものを見て様々な価値観を吸収していたし、伝統工芸に対しての知識がないから工場ではなんでも『いたずら』状態です。本当にとっぴょうしもないことしてた(笑)

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既成概念がなかったんですね。どうしても『伝統』の枕詞がつくと、発想や工法が縛られてしまいそうですもんね。具体的に着色の商品開発ってどうやるんですか?

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A液とB液を混ぜてみたいな感じですよ。本当に危ない失敗もよくして、酸とアルカリを混ぜてブワー!って工場を煙だらけにしたこともありました(笑)

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科学実験みたいですね!成功したとしても、また同じ色を出すのは難しいんじゃないですか?

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そうそう。再現性が無かったです。一度うまく行っても、それがなぜ出来たのか分からない。でも面白い色が出た。そんな感じです。それでも繰り返して半年~1年をかけ、新しい着色を技法として定着させました。斑紋孔雀色(はんもんくじゃくいろ)といった、独自のものがいくつか作れるようになりました。私が名付けた独自の着色です。

_MG_2678【これが折井さんが生み出した斑紋孔雀色(この写真は結構アップです)】

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この折井さんの技法が脚光を浴び始めたのはどんなタイミングだったんですか?

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高岡のクラフトコンペティション等に出品しだしたんです。展示会をやってると色々なところから声かかるんです。『高岡で面白いことやっている職人がいるよ』みたいな感じで。

※クラフトコンペティション・・・高岡の商工会が主催する手仕事やクラフトのコンペ

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展示会に伝統産業青年会のブースとして出始めたのが10年前なので、私が高岡に戻ってきて9年が過ぎたくらいです。この頃になると工場はどん底を脱し、少しづつ回復の傾向でした。それでも全盛期の3割減ぐらいの水準をやっと維持している水準でした。5名ぐらいの規模でなんとか耐えしのいでました。

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その後、2009年に初めて東京の展示会『インテリア・ライフスタイル』に単独で出展しました。アルティザン(職人枠)で入口付近の一番いいところに入れてもらえました。この単独ってのいうがポイントでしたね。モメンタムではそれまで建築がメインでしたが、展示会に合わせてプロダクト系も揃えました。品揃えを増やし、銅器をモチーフにした什器を持ち込みしっかりと展示しました。おかげで展示会の出展者さんからも反響を呼び、ここでもまたひとつモメンタムに転機が訪れた形ですね。以来、年に3〜4回単独で出展していますが、初回出展時程のインパクトはないにしても、取引先がどんどん増えています。

momen一般消費者向けプロダクトとしてのモメンタムのコースター。同じ銅でもこれだけの色に変わります!】

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こうしてモメンタムは建築資材ベースから生まれ、一般向けのプロダクトも増えて、今に至るわけですね。折井さんが戻った大変な時期と比べ、現在は売上水準は戻ったんですか?

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売上の水準は単独出展をはじめてここ2〜3年でもどってきましたね。平均的に戻ったのが5年前ぐらい。今ではどん底の時の5倍、親父がやってた時の3倍になりましたね。最近は毎年10%以上の伸びを記録しています。

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見事なV字回復ですね!

職人技術と感性が交差する!銅着色の方法を写真で公開!

展示会でも大好評のモメンタムのプロダクトはどのように作られているのでしょうか。高岡の工場で現場に潜入しました!

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工場の作業で、どの工程が一番大変なんですか?

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色によって工程が全然異なるんです。一枚づつ薬品と熱との反応でムラを出していくんですよ。で、これって言ってしまえば、抽象画を描く様なイメージなんです。ですので、技術だけではなく、感性が重視されるものなんですよね。

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面白いですね!モメンタムのプロダクトには職人技術だけでなく、センスが必要なんですね。プロダクトの表情にしても何ひとつ同じものはないってことですね。同じものを作る作業とは明らかに違いますね。

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そう、二度と同じ柄は出せません。もちろん小さい商品はできるだけ同じ色が出るように調整はします。お客様によっては、細かい柄がいいと言う方がいるので、その都度調整するんです。

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ひとつひとつの商品の顔が違うのって、いまの時代に合っていて『自分だけのオリジナル感』がありますね。この着色の技術自体は広めては行かないんですか?

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うーん…この着色法を生み出すまでは大変でしたが、一度できれば教えれば誰でも出来ると思います。今は特許を出さず『門外不出の技術』としてこのモメンタムだけで行っています。今後は徐々にのれん分けみたいな感じで広めて行くのはアリかと思ってますね。

tone_bucket-ice_pail【現在はデザイナーさんとも組んで、次々と新商品の開発を行っています】

ここからは銅の着色の様子を写真でご案内します。

■銅に模様を出す技法 糠焼き(ぬかやき)

ぬかみそを銅の表面に塗って焼き上げ、独特のムラを出す技法です。

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銅にぬかみそを塗り、バーナーで焼きます

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塗ったところが少し浮き上がってますね

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稲を銅線で束ねたネゴホウキで塗る。筆や刷毛は高熱に耐えられないんです。

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稲の芯を束ねた「ネゴホウキ」

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この熱した品物をネゴホウキで磨く作業は、「おはぐろ」と呼ぶ。
繰り返すことによって色味を調整する。塗りこむ液体の上澄みでは透明感が出て、カスを残したい時は下部の沈殿したところを使用する。コーティングでは出せないツヤが出るのが特徴

別の着色技法もみせて頂きました!

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緑青を発生させた銅板をアンモニア水の帰化したガスに触れさせると…

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小学校の頃のリトマス紙を思い出します。それにしても美しい色に!
これら写真の工程は、順番を変えることによって、数十種類の色を出す事ができるとのことです。

↓こちらは企業秘密の着色方法。あまりアップにして見ないでください(笑)

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ものづくりで盛り上がる高岡。伝統工芸士、折井宏司イズム

モメンタムが拠点とする富山県高岡。時代と共に徐々に減って行った工場ですが、このものづくりの街には近年活気が戻りつつあります。

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いつも周りから高岡高岡うるさいって言われるんですけど、やっぱり地元の高岡を盛り上げていきたいと思っています。高岡でも、9割は昔ながらの商流がまだ多い。モメンタムみたいな新しい商流で商売をしている工場はまだ少ないですよ。モメンタムでは完全に昔と立場が逆転して、地元の問屋さんにお願いされて商品を卸すようにまでなりました。企画とか設計監理のお仕事を問屋さんにお願いしたりもしています。何もこれはモメンタムの立場が上とかそういうことではありません。ここでは伝統産業の構造自体がかなりフランクになってきてるんです。今私たちの世代は問屋の息子も職人の息子も垣根を越えて一緒にやって行こうという良い流れがあります

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新しい流れが高岡でも生まれているんですね。外から見ても盛り上がりつつありますよね。

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若手も多くいますしね。普通はこの業界の工場の平均年齢は65歳ぐらいです、でもうちの工場は平均年齢が36歳ぐらい。ここ4、5年で熟練の職人さんから新陳代謝が進みました。

_MG_2780【学校を卒業したての若手の女性職人さんも】

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まずは、工場に来てもらわないと。あと、始めに話しましたが形も大事、ファッションとかね。工場や職人を見た時にかっこよくないと。モメンタムは、まだ売れてない時に工場の設備や機材を充実させるよりも前に、入口側のエントランスや事務所をかっこ良くリフォームして『バカじゃないのか』って言われてたけど、この投資は5年で回収できましたよ(笑)私が変化を追求するのは、『伝統産業をかっこ良くしていきたい』って想いが一番大きいんです。床の間の銅器の置物なんて今は誰も使わない。でも、それを使ってみたいと思わせたいんです。私も伝統工芸士なので、トラディショナルな物を守る必要もありますが、変化をし続けなくてはいけないと、自分に言い聞かせています。今モメンタムがやっている分野は、実は伝統工芸ではないんです。それでも、私が現在やっていることに対し、『うちも同じようなことやりたい』って人が増えているんです。この流れって、自分が死んだ後に、この着色法や圧延板の建材が高岡の伝統産業になるかもしれないってことですよね。地元では『打倒・折井』みたいな感じで盛り上がってきているんですよ(笑)真似したい人が出てきて、競争相手が増えるのは辛いこともある半面、産業全体で考えると良いことですよね

tone_mirror【新ブランドラインのtone。曲線が際立った美しい線がやわらかい印象です】

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折井さん、さすが器が大きいですね。かっこいい!ずばり成功の秘訣は何ですか?

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うーん。なんでも絶対に信念持ってやり続ければ、なんとかなると言いたいですね。この世界で何かものごとがしっかり成功するまでは10年くらいそりゃかかりますよ。桃栗三年柿八年っていうけど、10年はかかると思う。私も10年かかりましたから。

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確かに時間はかかる事ですよね。かっこいい伝統産業の未来の姿を想像させてくれる折井さんはセコリ百景にとっても、頼もしい存在です。

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こうして偶然でも関わった人との縁は大事にしたいよね。今回の取材も本当は一時間くらいかな?なんて思ってたけど、たまたま高岡の工場で時間が空いてたので(笑)これも何かの縁ですから、大切にしていきたいですね。さー仕事を終えたら飲みに行こうか!

ー完ー

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大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。http://www.brightlogg.com/