カキモリは2010年に東京の蔵前にオープンした、オリジナル文具・インク作りを体験出来るショップです。
カキモリは、書く人(モリ)が由来です。
普段はスマートフォン等のIT機器を使っている人にも、週の中で1度ぐらい手紙を書いたり、アイディアを紙に書くことに時間を使い、感じ、毎日を少しでもあたたかく過ごして欲しい。
書きびとが少しでも増えて欲しい。
この名前にはそんな想いが込められているそうです。
そんな想いの沢山詰まったカキモリの魅力をご紹介していきます。
カキモリの創業時秘話
広瀬さんは、祖父の代から企業向けに文具を販売する群馬の文房具屋に生まれました。
群馬は、国内で大きなシェアを誇るボールペンメーカーの工場があるなど文具の生産が盛んな土地。
群馬県は自動車や機会メーカーの部品工場が多く、その下請けとなる金属加工メーカーも多くなり工場を作ったことから、金属加工が必要な筆記具のメーカーも集まっているそうです。
実家の文房具屋さんを広瀬さんのお兄さんが継ぐことに。
その後、考えた広瀬さんは、東京で文房具屋を始めることにしたそうです。
当時はアスクルなど大手の事務用品の通販が伸びていて、企業や公官庁の発注の多くが通販に流れていました。
そんな時代に会社向けの事務用品の販売では厳しいだろう。
であれば、一般の方に販売する小売店を始めようと考えお店の場所を探し始めたそうです。
そこで目をつけたのが蔵前。
「手帳やノートの最終下請けの町工場が蔵前にあったこと、同業者と商圏が重ならないことが決め手でした。」
「同業者は競合ではなく、一緒に業界を盛り上げる仲間です。だから商圏が重なる事は、極力避けました。」
「どうせやるならば通販には出来ない、お店だからこそできることをやろう!」
こう考えていたそうです。
当時は資本力もそれほどなく、思考を巡らせた結果、オリジナリティと文具店としての専門性の高さで勝負しようと決めます。
「コンセプトがしっかりしていれば渋谷・新宿・池袋など人が多く訪れる街でなくても十分にお客さんが呼べると考えました。しっかりお客さん呼べると思ったのですが、最初の1年は結構厳しかったですね。ですが、おかげさまで2年目以降はカキモリのために蔵前に来て頂ける方も増えました。」
広瀬さんの当初の狙いは、しっかりと的を射抜きました。
オリジナリティと専門性
広瀬さんが形にした、オリジナリティと専門性、いわばカキモリの特徴についてをもっと詳しくご紹介します。
お客さんが複数の素材から選び、自分のオリジナル商品を作る事が出来るカスタムオーダー。
これがカキモリのオリジナリティです。
カスタムオーダー形式であれば、お客さんがショップに訪れるきっかけにもなるし、モノづくりの現場とお客さんを繋ぐことも出来ます。
これは通販でなかなか出来ません。
現在ではカスタムオーダーが出来るアイテムはノート・インク・便箋と3タイプがありますが、一番最初に始めたのはノートです。
ノートに決めた理由は『1冊のノートから始まる』という当初のコンセプトがあったから。
いざノートを作ることに決めてからは、表紙を作ることの出来る職人さん、印刷の職人さん、裁断の職人さんに飛び込みで会いに行き、少量生産をお願いして回り何件も断られたそうです。
広瀬さんの行動力の素晴らしさと、その当時の苦労は想像に難くありません。
ここカキモリでは専門性についてもかなり意識をしています。
お店をぐるっと見渡してみると、オリジナル商品以外の品揃えは
・書くもの(ペン、鉛筆、万年筆、インクなど)
・書かれるもの(ノート、紙、便箋など)
この2つに絞られています。
他の文房具で見かけるような、時計やバッグなど専門外のものはやらないそうです。
あくまでも書くものと書かれるものにこだわりを置く。
言われてみれば、最近のお店で純粋な文房具店はあまり見かけない気がします。
ちなみに万年筆などは世界の様々なメーカーのものが壁にずらーっと並んでいました。
どれも個性的で、あれこれ試し書きをしているとあっと言う間に時間が過ぎてしまいます。
製品へのこだわり
ここからはオリジナルノートに焦点を絞り製品へのこだわりをご紹介します。
ノートは各パーツをそれぞれ蔵前の職人さんに発注しています。
表紙を包む(くるむ)のは製本屋さん
アルバム台紙はアルバム屋さん
印刷は印刷屋さん
断截は断截屋さん
その他、箔押し、革部材は革抜き屋さん
等その数なんと10社程度の職人(メーカー)さんと直接やり取りするそうです。
【カキモリオリジナル作成の蔵前地図。蔵前には見どころが沢山です。】
カスタムオーダーだからといっても、手作りの感じにならない様、それぞれの部材をその道のプロフェッショナルに依頼し、詳細まで丁寧に作り込んでいます。
このカスタムオーダー式のノートは下町の職人技を残すことにも貢献しています。
広瀬さんいわく、職人の技はここでも危機的な状況にあるそうです。
包み加工の職人さんは台東区にもう1件しか残っていないそうです。
それぞれの分野のプロフェッショナルが作ったものを、お客さんが自ら選び、最後にカキモリでノートに製本します。
自分で選び、作ることで愛着がわき、書き終わった紙は交換し、長く愛用することが出来ます。
カキモリの狙い
【インクスタンドでは好みの色を混ぜ合わせ自分だけのインクを作る事が出来ます】
半年前にオープンした、あたかもお洒落なバーかカフェかと思われるような佇まいのインクスタンド。
複数の色を混ぜ合わせ、自分であれこれ考えつつ、好みの色のインクを作り出すことができます。
製作時間は30分程度。
自分が作った色の組み合わせのレシピももらえるので、同じものを継続購入することも出来ます。
「お店の外観も含め、かなり尖ったデザインを目指しました」
お洒落なお店の立ち並ぶ蔵前付近でも、一際目を引きます。
お忙しそうな広瀬さん。
2015年の4月に台湾にポップアップショップを出したそうです。
この始まりは蔵前同士の繋がりから発展したお話だとか。
台湾のショップも開店当初は予想を上回り、行列が出来るほどの大盛況だったそうです。
日本でモノを作り、海外で販売していくという広瀬さんの今後の展開を見据えた第一歩が台湾のポップアップショップなんだそうです。
日本の商品は売値が高いにも関わらず、売れ行きは絶好調です。
海外にお店を出すことで、需要を創出し、国内の生産の量も増やすことができます。
理想は、海外のお店でカキモリを知って、日本にももっと人が流れてきてくれることだそうです。
蔵前と言う地にしっかり根を張りつつもグローバル視点で大きく考える広瀬さんが印象的です。
ネットに出来ないことを目指して作ったカスタムオーダーも、一度来店してもらい、購入し、その後の紙の交換はネットで行うなどお客さんとの接点を残したままうまくネットに置き換える通販を今後は検討していくそうです。
現場とネットをうまく繋ぐ仕組みを創り上げる事は僕たちセコリ百景の目指す形でもあります。
広瀬さんの胸中にある戦略を含め、今後の展開から目を離す事のできない、文房具好きにはたまらないカキモリさん。ご紹介したカスタムオーダーはプレゼントしても、とても喜ばれそうです。
デジタル製品が溢れる今だからこそ、アナログな製品にほっとする、そんな事もありそうです。
原稿をタイプしながら、なんだかたまには手紙を書きたくなって来ました。
カキモリ|店舗情報
住所:東京都台東区 蔵前4丁目20−12
営業時間:12:00~19:00/ 定休日:月曜(祝祭日を除く)