良質の革に出会ってから、それに最適なアイテムを考えて、作り込む。

今回お話を伺ったのは『本物のクラフトーワークの革製品を届けること』を理念とし、ものづくりの盛んな東京の蔵前に店舗兼工房を構えるAtelier K.I.の池田耕平さん。

池田さんは自身のブランドであるレザーブランドのPRO-MENER(プロムネ)と、革のサンプル職人という2つの顔を併せ持っています。

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まずは革製品の製造に関わる工程についての話をしましょう。
革製品の製造は、専門家・分業化のとても進んだ産業です。

皮屋・・・皮輸入や販売
タンナー・・・皮をなめして、革を作る
刃型・・・革を決まった形に切るための型を作る
型抜き・・・革を決まった形に切り抜く
箔押し・・・箔や型押しをする
革すき・・・革をすいて薄くする
縫製・・・革の縫製とのり付け

※通常は革職人といえば、縫製・のりづけをする人を指すことが多い。

ざっくりと分けただけでも、これだけの数に分かれます。
そして、それぞれに特化した職人さんや工房が存在します。

他業界同様、市場の原理が働くので、同じものを大量に作った方が製造の効率は上がり、コストを下げることができるため、分業化が進みました。

そんな業界では、池田さんのサンプル職人という仕事は、全く毛色の違う仕事かも知れません。

なぜかと言うと、タンナーさんから革を仕入れる以降の工程は池田さんがすべて1人でやってしまうからです。

ひと口に革を仕入れると言っても、革は種類・原産地やなめしの手法などです。
代表的な牛革・豚革・馬革などに加え、ラム革や、その他にもたくさんの革があります。

余談ですが、食品として肉を消費する場所で皮が取れるので、豚革であれば日本のものも質が高い上に、コストも安いそうです。

それに対し、ラム革などはヨーロッパ産の方が質が高いといったように、原産地により革の質や価格が異なります。

なめしの技法は大きく分けて二つあります。一つは植物由来のタンニンでなめすタンニンなめし、もう一つは化学薬品でなめすクロームなめしです。

革を仕入れて製品を加工するために、革ごとの特性を知り、適切な加工ができる、これには知識と経験が必要です。

サンプル職人としての池田さんは顧客(バッグショップなど)の希望するデザインをヒアリングしながら、細かくデザインを調整し、デザインとパターンを決めます。

その後革を仕入れ、デザインに基づき、手断ちで型を抜きます。

これはサンプル作成で一つひとつ作るからこそ発生する作業ですが、製作個数が1つのために刃型(量産のための型)を作り、機械で型抜きすることはできません。

IMG_4748【余った革で実演してくれた池田さん】

この他にも念引きと呼ばれる、熱したコテを使って凹みラインを入れる作業も技術が問われます。

革の質・革が含む油分の量によって、コテの温度も微調整します。
油分が多いものだと焦げてしまうので、通常よりも、若干温度を下げたりと繊細な技術が求められます。

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そんな工程の中でも、一番革職人さんの腕がでるのが、革のコバ(端っこの切断面の部分)をどの様に処理するかだそうです。
革に合わせて、薄い革はヘリ返し・菊寄せにより仕上げたり、顔料を塗りこみ滑らかに仕上げたりと細部にこだわります。

※ヘリ返し 革が合わさる部分の、革の端をすいて薄くし、包み込むように折り返し、切断面が見えないように縫う技法

※菊寄せ ヘリ返しの角の部分を菊の模様の様にまとめて仕上げる技法

この処理の仕方、みなさんもご自分の財布の横の部分を見てみて下さい。どのように処理されているかで量産品との見分けを付けることが可能です。

サンプル職人として、毎回違うものを作成するので、手作業でほとんどの工程を行います。
だからこそ、池田さんには様々な技術が身についています。

ここ蔵前でも池田さんの技術の高さは有名で、周囲から絶大な信頼を集めているようです。

それでは、そんな素晴らしい技術を持つ池田さんが自ら手掛けるブランドをご紹介します。

サンプル職人として、全工程を知り尽くした池田さんが作るこだわりの革ブランド

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革製品に必要な全ての工程を1人で完結できる池田さんが2012年に立ち上げたブランドがPRO-MENERです。

ブランド名の由来はフランス語で、
pro・・・プロフェッショナル
mener・・・リードする、導く
promener・・・散歩する
を組み合わせた言葉だそうです。

池田さんには、クラフトワークならではのものづくりへのこだわりを感じるエピソードがあります。

『良い革に出会わない限り、作りたいものがあっても作らない』

これは、最終製品を手に取り使ってみることで、革の良さやつくりの良さを伝えていける製品作りを目指すということ。

製品を作るときにこだわるポイントが、素材の良さを一番活かせるデザイン・製法であること。

だからこそ、良い素材に出会わない限りは製品を作らないそうです。

「僕の製品の特徴の1つは、高いことです。良い原材料を使っていますからね」
池田さんは笑いながら話します。

言うまでもないかも知れませんが、一般的な革製品は、デザインを決めて、販売の価格をもとに使用する革を決定します。

しかし、この決め方では材料費の制限もあり、その形・アイテムに一番適した革を使用することは困難です。
池田さんの製品の作り方は市場のセオリーからは逆の順序で進めます。
革を決めて、その材質・手触りなどからその革が一番活きる製品をデザインし、革に合わせた加工法で縫製をします。

その中でも、ラム革のバッグが良い例かも知れません。

IMG_4775【ラム革のバッグ】

池田さんは、ずっとバッグを作り気持ちを持っていたそうです。
しかし、なかなか「これだ!」と納得できる革に出会うことができず、バッグ作りに取り掛かる事ができなかったそうです。

そもそも、革には個体差があります。自然由来の素材であるため傷などもあり、仮に最適な革が見つかってもバッグを作るだけの革が取れないこともあるそうです。

「『先にこういう革が欲しい』とイメージしすぎると制約が強くなりすぎ、まずイメージ通りの革には出会えない」池田さんは話します。

メーカーの人や革屋さんとまめに連絡をとりながら、良い革が入ったら見せてもらい、素材を決めていきます。

今回は、なめらかな手触りで、柔らかい最高のラム皮に出会えたので、バッグを作ることが出来たそうです。

このバッグにも1点1点に処方が施されています。

「柔らかいラム革でビシッとしたバッグを作っても素材が活きてこないですし、ラムは軽さも特徴ですので、柔らかさのある曲線的なデザインでバッグを作ったんです。」

こちらのバッグ、実際に持たせてもらいましたが、本当に柔らかい手触りと軽さにびっくりしました。

もう一つ簡単にプロダクトをご紹介すると、このコードバンの財布がお店の売れ筋だそうです。

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このコードバンももちろん素材の良さにこだわっています。
染めと仕上げを日本で行っており、水染めで仕上げた特別な革だそうです。

顔料仕上げであれば、多少の傷も隠すことができるのですが、水染めだと傷があると製品が作れないのでどうしても数が少なく、原材料の価格は高くなるそうです。ですのでこの美しいコードバンは正真正銘の美しい革です。

※水染め・・・何重にも色を重ねる為奥行きがでて、長く使っていくと顔料で染めたものと比較して、経年の味が出る。

一番のこだわりと、仕事の楽しさはずばりなんでしょうかと聞いてみました。

「当然ですが、革職人として縫製の仕上げも、ものすごくこだわっています。デザインに関しては過剰にデフォルメされることが無く、シンプルなものを追求しています。この仕事をしていては、お酒を飲むのと、新作の製品を作って、デザインと形がハマったモノができたときは楽しいですね」と池田さん。

次では池田さんの考える未来図を紹介します!

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プロフェッショナルを育てたい

「今は本当のものづくりをできる人が減っているから、ものづくりの養成所を作って、プロを育てたいんです」

僕たちとも年齢が変わらない若手の職人ともいえる池田さんの口から、未来のものづくりに対して危機感を持つ言葉が飛び出てきました。

これこそがブランド名のPRO-MENERからも伺い知ることができる池田さんの想いです。

「プロを育てて、メーカーに送り出したいんですよ。今の職人さんは40歳以上の方が多く、若者で職人を目指す人の
少なさに僕なりに危機感を持っています。ならば自分で育てようとこの構想を持ち始めました。」

その第1歩として、池田さんは定期的にものづくりの楽しさに触れるワークショップを実施しています。
普通のワークショップだと、4−5時間程度で終わってしまうそうですが、池田さんのところでは、革すき、ミシンなど全て自分たちでやって、9時間ぐらいかかったこともあるほど本格的なワークショップを経験することができます。

「寄り添いながら、一人ひとりに教えることはとても大変ですが、やりがいがあります」

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今後の日本のものづくりに対して、真摯に自分で打てる手を打とうとする想いは僕たちも同じです。

同じ世代の職人の方が、危機感を持って自分の仕事を通じて、未来のものづくりに対して何かできる活動を起こしているのを目の当たりにし、とても刺激受けたインタビューでした。


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大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。