この地域の魅力を伝えるには、今回の旅で撮影した写真が足りな過ぎたようです。

それほどたくさんの魅力を伝えたくなるくらい、とても魅力的な土地でした。

みなさんは神奈川県の“藤野”という地域をご存知でしたでしょうか。

神奈川県民の僕ですが、恥ずかしながらこの地名は知りませんでした。
今回はものづくりから少しだけ離れます。

ちょうど、ダムの有名な宮ヶ瀬湖と相模湖の間に位置するこの地域。

神奈川で自然・山と言えば箱根を真っ先に思い浮かべますが、ここは箱根とはまた違った空気が流れる芸術の楽園、クリエイターの楽園ともいえる様な風土でした。

1日の取材で周り切れないほどの魅力的なギャラリーやアトリエの数々。

親切で、笑顔のあふれる素敵な人々。

セコリ号は今ごろ関東近郊を飛び回っているはずですが、今回のセコリ百景は旅感覚でこの独特の空気の流れる地域の様子をお伝えできればと思います!

神奈川県内から国道246を抜けて厚木からやや北上して行くこと30分。

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中津川沿いに桜を見つつ車を走らせると、段々と周りの風景がのどかに移り変わり、目の前に大きく川をまたぐ橋が見えてきました。

246から抜けてくると、この橋が目印。

橋を渡り、住宅地の奥へ抜けるとそこには初めの目的地、中津箒(なかつほうき)さんの箒の博物館に到着です。

この時訪れた際は、時間も早く平日であったからか、幸運にも社長さんのお話を聞くことができました。箒(ほうき)の歴史背景、本来の使用法、箒の作り方やその素材背景、数々の感慨深いエピソードを伺い、足早に次の目的地へ向かいました。

その地域独自の、代々根付くものづくりとは、簡単にひと言では語ることのできない奥深さがあります。こちらのお話は次回以降にとっておき旅を先に進めて行きたいと思います。

せっかくですので中津箒の社長さんに教えて頂いた、この地域の守り神とも言える趣のある神社に訪問した様子をお伝えします。

その名は“八菅神社”。

ここでも満開の桜がお出迎えしてくれました。

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何でもこの神社は古くから山岳信仰の要所として有名であったそうで、日本武尊の言い伝えが名前の由来になっているそうです。歴史のとても深い神社です。

急こう配の階段に奥へ奥へと誘われている様な、とても神聖な場所でした。

階段は総数でいえば300段くらいはあるのではないでしょうか。

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神社を後にし、中津川に沿いながらいよいよ藤野方面へと山道を走らせて行きます。

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藤野と言う土地は、古くは甲州街道の宿場町として栄え、高度成長期の時代には“芸術の街”として作家さん、芸術家などを誘致しようという動きがあったのだとか。

多くの人々やギャラリー、アトリエを惹きつける魅力的な場所だったそうです。
一時期は中だるみしてしまい、勢いの衰えた時期もあったといいますが、僕が見た限りでも、お話を聞いていても、最近は若い作家さんやクリエイターの方が町に流れてきている様です。

今まさしく建築中であろう建物も沢山点在していました。

そんな気になる景色を横目に、山奥へと車をゆっくりと進めて行くと、山あいに集落が見え始めました。
ようやく“〇△Gallery”に到着しました。

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このギャラリーとの出会いは鎌倉にあるセレクトショップに置いてあった〇△ギャラリーの案内の冊子を発見したところからでした。

この冊子には藤野の地図も載っており、とてもこの地に興味が湧いたのです。

あとから聞いてみれば、〇△ギャラリーがオリジナルで作成した地図だそうです。

お話の端々からも地域を盛り上げる努力と、地域に魅力を感じて来てもらおうとする努力を感じました。

IMG_4373<〇△ギャラリーオリジナルの地図>

このギャラリーに僕たちが訪れた際の展示は“小林聡子”さんの作品。

今回は『青』にこだわりを持って作品を制作しているそうです。

ギャラリーに優しく差し込む光に溶け込むような『青』の作品がとても魅力的でした。

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このギャラリーはオーナーであり作家さんである野上薫さんとその旦那様の建築により完成しました。

旦那様は大工をしていて建築を担当し、内装の壁紙貼りなどは野上さん自身が手掛けています。

手作りと言ってもさすがプロのお仕事で、洗練されていて茶室まである特別な空間です。

その空間に存在する一つ一つのモノが放つ凛としたオーラが、ギャラリーの空気を引き締めています。

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今回のギャラリーを訪れるもう一つの目的は、この場所のオーナーであり、作家の野上薫さんの作品の背景を聞かせていただくことでした。

このギャラリーの持つ雰囲気とは対照的な、優しく自然体な野上さんがとても印象的でした。

野上さんは多摩美術大学の陶芸油画専攻のご出身で、大学時代はオブジェばかりを作っていたそうです。

元々コンテンポラリー(現代的な要素のもの)が好きだったそうですが、美術にも興味があり、自邸を作る際に、ギャラリーを開廊するにいたったそうです。

叔父さんが唐津焼の陶芸家で、そこで器の技術を学んだそうです。

そんな背景は作風にも現れていて、野上さんの作り出す陶器の作品は、なつかしく、自然な風合いを保ちながらも、どこかに洗練された感じのする作品です。

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写真のマグカップはヒモづくりと言われる技法で作品を制作しています。

このヒモづくりとは粘土で紐を作り、ベースの底面の粘土の周囲に、それを巻き上げるようにして積み上げて成形していき、積み上げた粘土の表裏を滑らかに整える陶器の成形法です。

通常はマグカップを作る程度であれば、太めの直径2cm程度の紐を2回ほど巻いて作りますが、野上さんは3-5mm程度の細い紐を6回以上巻いて作成します。

成形した後、中をヘラでならしてから素焼きし、その後に紐目に白土を象嵌(ぞうが
ん)する。 この様にして作品がつくられていきます。

通常の作り方ではヒモの跡は消してしまいます。また手間もかかるため、細い紐でヒモ跡を残して陶器を作る人はいないそうです。

しかし、野上さんはこの白いヒモの跡を残したかった。この製法本来の必然さの中に、模様として描くのではない美しさを感じたそうです。

線で書くのとはまた違うテクスチャー(物の表面の質感・手触りなどを指す概念)にこだわりがあるそうです。

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このヒモヅクリの技法は、唐津焼の技法に叩きというものがあり、そこから来ているそうです。
※叩き・・・古唐津を代表する伝統的な技法。その工程は、ろくろ板の中心に、粘土で底の部分を乗せ、ひも状の粘土を積み上げて円筒を作る。内側にあて木をあて、外から叩き板で叩いて粘土を締めながら形成していく技法。主に水さしや壺、甕などと作る場合に使われる。

陶器の産地には色々な栄え方があります。
例えば焼き物で有名な唐津や益子は陶器に向いている土がとれたため、古くから陶器文化が栄えました。
ここ藤野にも、複数の陶芸工房が存在しています。
藤野で陶芸をやる方が多いのは、土が取れるからというよりも、都心からあまり離れていない場所で、釜を作れるスペースときれいな水があることが要因だと思います。

野上さんは、作品に使用する土は陶器の産地で有名な信楽などから取り寄せるそうです。信楽といえば、たぬきの焼き物が有名ですね。

あっという間に時が過ぎてしまいました……。

山間のギャラリーで飲む、自然な素材で出来たマグカップでいただいた珈琲の味が忘れられません。
冬に来ても、寒さの中でそれはまた風情があるだろうなあと思いつつ、お礼をしに訪れるお客さんの間を縫って、〇△ギャラリーを後にしました。

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〇△ギャラリーから少し小川沿いに下った道路沿いには石窯で焼いたパンを作っているパン工房のアカラナがありました。
週末を中心に営業をされているそうです。

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こちらは石窯でパンを焼いていて、店構えも全てが手作りだそう です。
ガラス瓶やボウルがお店の外壁に埋め込まれています。

IMG_4618<さるすべりを自然のまま使用したお店の取っ手部分>

オーナーの女性は窯でしかパンを焼いたことがないそうで、ここのパン工房の新しい窯も、その性質を知るまでにもう少し時間がかかるとおっしゃっていました。窯をつくってしばらくは水分があり温度が上がりにくい など、電子制御ではない分、気を配るポイントが沢山あるそうです。

薪の調達までご自身でされているそうで、一番大変な作業だそうです。
この薪の乾き方で焼き上がりが変わってくるそうです。

そしてここにも作家さんがいらっしゃいました。

このオーナーの女性は、パン工房で使用した牛乳パックなどを使用して絵本も創られていました。

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いたるところに芸術の生きるこの藤野のまち。

帰りは地元の源泉かけ流しの良質な温泉にお邪魔し、改めてこの地の魅力を感じつつ藤野を後にしました。

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今回訪れた以外にも気になるスポットがまだまだ満載。

興味のある人には是非訪れていただきたいです。

引き続きこちらの地域の内容は取材し、更新して行きたいと思っています。今回の取材日は天気はいまひとつでしたが、天気のいい日にはもっともっと魅力的な風景に出会えると思います。

都内からもこれ程近い距離で、緑と芸術の溢れるこのまちの魅力が多くの人に伝わって欲しいです。

今回突撃で取材させてくれた皆様、本当にありがとうございました。また会いに行きます。

(大滝洋之)


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大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。http://www.brightlogg.com/