ーやっと土台は整った。ここからやっと勝負に出ることが出来るー

東京都の世田谷区の地に根付くクリエイターの拠点「IID 世田谷ものづくり学校」。

開設12年を迎え、ますます勢いを増すこの拠点。新潟県三条市、島根県隠岐の島町でも同様の廃校を活用した施設を運営する、株式会社ものづくり学校代表取締役の高山勝樹さんに直撃しました。

かつては「Japan As no.1」の称号を欲しいままにした国内のものづくりも、軒並み世界でのプレゼンスを失う現在。日本人は今一度、ものづくりの在り方を根本的に考え直すべきかもしれません。

「海外の展示会で一生懸命モノの凄さや技術の説明をするのは日本人くらい。海外メーカーは、そのモノを実際にどう使うのか、生活への取り入れ方を説明します」

高山さん率いる株式会社ものづくり学校でも「モノだけでなくはなく、コト=文化創り」として国内のものづくり全体を引き上げる活動を多方面から展開中。

建築の設計も手掛ける経歴を持ち、日本のものづくりに熱中する高山さんの言葉には、新しい時代のものづくりのヒントが散りばめられていました。

製造業の「現場」とはまた異なる角度から業界に切り込む株式会社ものづくり学校は、新旋風を起こしてくれそうで必見のインタビューになりました!

もくじ

クリエイター拠点、IID世田谷ものづくり学校とは?設立背景に直撃。

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本日は宜しくお願いします。まずは東京都の世田谷区にある、IID世田谷のものづくり学校のことを教えて下さい。

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はい。IID世田谷ものづくり学校は、今年で12年目を迎えます。私たちは、多方面で活躍する大小問わずクリエイターやデザイナーを中心とした「ものづくり事業者」の方々に「仕事場」として中学校の教室を貸し出しています。当施設は、「ものづくり」の定義を広く捉え、様々なジャンルの事業者に入居してもらっています。開設した当初は民間企業が公共施設を活用するなんてことは、とてもめずらしいことで、都内では初の試みでした。

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各教室がオフィスになっていますね。それこそ昔は、今にも増して公共の施設を利用して、民間の営利企業に貸すなんて悪だ、みたいな風潮があったとか?

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はい。でもそれっておかしいですよね。収支を度外視して事業の継続なんてできないんですよ、本来は。

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そうですね。

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このIID 世田谷ものづくり学校の運営にあたっては、運営元の体制をNPOにできないかなんて話もありました。民間企業が廃校を借りることは当時本当に大変でした。

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ここら辺(東京都世田谷区池尻・三宿周辺)の地域柄、クリエイターが多かったことから、「ものづくり」にフォーカスしたと聞きました。

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そうです。この周りは公園や住宅街に囲まれた静かな場所です。クライアント企業が多い都心にもアクセスしやすく、仕事する環境として適していたようです。そのため事務所兼自宅として住んでいる方が多かった。そんな環境もあり、クリエイターの誘致には当初から成功していたんです。

F85A2296【施設内には著名なアーティストによるペイントも】

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開設当初はどんな雰囲気だったんですか?

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前例が無かったのでオフィス管理としては苦労しました。ただ入居者の方には私たちの活動に賛同の上、入って頂いたので、ワークショップの講師をやってもらったり、主催するイベントをサポートしてもらったり、一緒になってIIDを盛り上げてくれました。これは、今でも変わらないですね。

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誰でも応募すれば入居が可能なんですか?

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いいえ。私たちの入居基準は結構厳しいかもしれませんね。

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どんな基準が?

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単にものづくりに携わる事業を行っているだけでなく、運営方針である「産業振興・観光拠点・地域貢献」の活動に賛同してくれる方であることです。これらに納得して頂いた上で、面談をし、世田谷区と協議して入居が決まります。事業計画やレポートも提出して頂きます。

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結構ふるいにかけられるんですね。契約の期間はどうですか?

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一般のオフィスは2年契約です。オフィス契約の約2割は創業支援ブースとしていて、これは1年契約で、創業3年以内の事業者に限っています。それと、最近ではコワーキングスペースも用意しています。

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僕ももう少し早く知っていれば気になっていたと思います(笑)

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この創業支援から独立された方で有名な方もいますよ。リトケイ(離島経済新聞社)さんとか。一般オフィスでは、広告代理店から独立して会社を立ち上げた方がいるのですが、現在は日本人で初めて民間宇宙飛行士としてISSに搭乗する人だったりします。ほかにも、ラジオ局J-WAVEのある部署が借りていましたよ。

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面白いですね。使い方も自由そうです。

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一般オフィスはショールームとして活用する企業もあります。

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普通の創業支援と言うと同じレベルの事業者ばかり集まるものかなと思いますが、ここは違いますよね。

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そうなんです。私たちは入ってくれる方の組合わせを考えています。ジャンルや規模にこだわらず、不平等に決めていくのはある意味、売りかもしれないですね(笑)。大企業だろうが、始めたばかりであろうが、個人的にはその事業にワクワク感があるのが一番大事だと思っています。

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意外と感覚的な要素があるんですね。

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そういった面もありますね。どれだけ成功して軌道にのっていた人がいたとしても、隣のブースに『これから何かやらかしてやるぞ!』なんて勢いを持った人が入ってくるとドキっとしません?

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確かに!それはシェアオフィス等、共同施設に入るメリットのひとつですよね。周りから刺激を受ける。

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そうそう。あとIID内で仕事の受発注も生まれています。雑談から仕事の話になって、その仕事を請けるなんてこともあるみたいです。

廃校を利用した施設を各地に展開。「民間」だからこそ出来ることをやる

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IID世田谷ものづくり学校の取り組みは、やはり珍しいですよね。

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はい。よく考えて見てください。日本では寺社仏閣は別として、古くなった建物は壊し、また新しいものを建てていくことが多いですよね。でも、それって運営者が借金し通しなだけで、意味がないと思っています。そんな社会に別の角度から挑戦したい思いもあります。

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なるほど。ここは行政のお金は入っていないんですか?

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そうです。建物の改修工事は当社が銀行から融資を受け、約5,000万円かけて実施しました。ただし消防設備など、法的な部分は世田谷区が整備しました。このような姿勢で続けているのが珍しいので、10年以上経った今でも他方面からの視察が絶えません。

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なぜ行政からお金を借りないのですか?

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どうしても制度上、皆が良いって言うことしか出来なくなることが多くなってしまうんです。私たちはそうなりたくなかった。自分たちで資金を調達し、株式会社という形式にこだわったんです。

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では助成金も基本的に受けてないんですね。

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IID世田谷ものづくり学校は独立採算で運営していますよ。余談ですが、助成金の使い方って、本来であれば1億をもらったら、10億くらいのことをやらないと意味がないと思うんですよ。

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継続しないと意味がないですからね。ビジネスとして成り立たないとですよね。話は戻りますが、この箱モノの運営はかなりお金がかかりませんか?

F85A2255【カフェも併設しています】

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オフィススペースである教室の中は、入居した人が内装工事まで手掛ける場合もあります。入居事業者にもたくさんお手伝い頂きながら運営されているんです。

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ここの場合、世田谷区と5年間の定期借家契約を結んでいます。そのため、5年毎に運営事業者を公募するんです。前回の更新時期に公募が実施され、その際は私たちも今までの実績をしっかり世に出して、認めてもらい、また晴れて運営事業者として選ばれたんです。

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本当ですか(笑)それはすごい。毎回成果が求められているわけなんですね。民間で出来ることこそが、公募の際は説得材料になる訳ですね。

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そうとも言えます。私たちは世田谷区に家賃を支払っていますが、近隣相場より低い設定にしてもらっています。

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普通に払えばすごい金額になりそうですよね。

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そうだ、あと、開設当初にあたり行政にやってもらったことがひとつあるんです。

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なんでしょう?

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それは規制緩和です。学校という建物を行政財産から普通財産へ用途変更してもらいました。さらにものづくり事業が区の条例で定義され、廃校を利用活用して事業が行えるようになりました。これがなければIID 世田谷ものづくり学校は始まりませんでした。

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それは行政でないと出来ないことですよね。

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行政、民間、ものづくり事業者、自分たちの得意な分野をそれぞれ持ち寄って出来たのがこの施設です。何も、大切なのはお金だけではないですよね。

_MG_4256【株式会社ものづくり学校の代表、高山さん】

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使われなくなった建物の中で40以上の事業者が仕事をし、さらに一般開放して年間6万人以上が訪れる場所。これって民間だからこそ出来ることだと思います。年間で500回以上のワークショップもやっているんですよ。

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すごい。ここを運営する事務局の方々は6名なんですよね?

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はい。世田谷の場合は社員が6名。社員の内4名がワークショップ・セミナーなどの企画をし、1日で1,000人以上集まるようなイベントを定期的に開催しています。その他の業務も多いので、現在は外部チームと共同で企画したり、地域の商店会と連携して開催することが多いです。実はボランティアスタッフにもイベントを手伝ってもらっていて、1500人以上の方に登録して頂いています。

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すごいですね。そんなIID世田谷ものづくり学校には、この地域全体を盛り上げたいといった意気込みがあるんですよね。

F85A2290【教室には様々なジャンルのオフィスが入居しています】

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東京都の世田谷区全体で考えると、クリエイター・デザイナーが仕事できる場所や交流できる環境って少ないと思うんです。自宅兼事務所という人は多いのですが。

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そう言えばあまり聞かないです。

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今私たちが考えていることがあるんです。IID 世田谷ものづくり学校をクリエイターのベース基地として、入居事業者だけでなく、多くの「ものづくり」に携わる方々に集まって欲しいんです。ものづくり学校の競合施設は他にあまりないので、例えば世田谷区内のシェアオフィスと連携して、サテライトオフィスみたいにお互い使えたらなと。ものづくり学校という場所だけでなく、私たちが持つネットワークやノウハウも利用してもらいたい。「個」で活動していた場所や人を繋げて循環させ、最終的にはこの世田谷全体が盛り上がっていけばよいですよね。

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おもしろそうな試みですね。楽しみです。

_MG_4303【IID世田谷ものづくり学校ではシアタールームまで兼ね備えます】

後半はこちら 日本のものづくりに必要なのは文化的な土壌

作者情報(一覧を見る)
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大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。