昔と同じように「良いもの」を作っても売れない時代と言われて久しい現代の消費社会の傾向。

これからは物質至上主義から体験至上主義へとシフトするのか。付加価値を上げて高く売るべきなのか、サプライチェーンを見直して適正な価格で売るべきなのか。モノを売るための多くの議論が巷には溢れています。

台東デザイナーズビレッジの鈴木村長は、日本のファッションを中心としたものづくり業界のアドバイザー。

ファッション業界のメーカーやクリエイター達の事業を「この目」で見てきた生き証人が語る、これからの「モノの売り方」と「ものづくりの未来」について。
鈴木村長(以下村長)の叡智が溢れる言葉を通して、業界の未来の道しるべを一緒に読み解いていければと思います。

もくじ

 

なぜ台東区なのか?ものづくりのクリエイターが集まる台東デザイナーズビレッジ周辺の歴史。

校舎全景1-min廃校を活用した東京都台東区のデザイナーズビレッジ

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それではまず、東(ひがし)東京エリアで、ものづくりのメッカとも言える台東区について、その歴史を教えて下さい。

鈴木村長

台東区は東京の23区内で一番小さい区です。第二次世界大戦前の台東区の人口は45万人で、東京都で一番人口が多い賑やかなところでした。戦後は1960年前後をピークに、2000年頃には15万にまで人口が減ります。戦前に比べて1/3程度になってしまったんですね。これは都心だけれど過疎地域のようなもので、23区で最も高齢化が進んでいた区でもあるんです。
そんな台東区は江戸時代から職人の街であり、小規模な手工業などのものづくり地域として栄えた町です。例えば袋物やタバコ入れなどを作り、繁華街である上野や浅草、日本橋で売っていたそうです。
昭和になって、徐々に下請けを中心としたバッグや鞄、アクセサリー等の服飾雑貨系のものづくりが盛んになります。ただし下請けが多く、有名ブランドの製品を作っているけれど、メーカーや台東区の名前が世に出ることはありませんでした。

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「◯◯産のなにか」の様な感じで、特定の地域と結びつかないので、消費者に対して地域のブランド力が無かったってことですね。

鈴木村長

そうです。これはその後に、台東区を産地として危機的状況に陥らせた一因とも言えます。

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高度経済成長期の時期ですね。

鈴木村長

製造拠点が地価や物価の安い郊外や東北などに移転したり、同じ製品を安く、早く、大量に作るような下請け仕事は、人件費の安いアジアに奪われていきました。この流れを受けて、「台東区周辺は、もっと付加価値の高いものづくりしていかないとだめでは?そのためにはデザインが重要だ」という声が産業界からあがり始めます。そこで、人口減による廃校の活用と、デザイナーの誘致、国による創業支援の後押しを得て、この「台東デザイナーズビレッジ」が生まれたんです。

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時代の流れに必要とされ、この地に台東デザイナーズビレッジが誕生した訳ですね。

10年以上クリエイターを世に送り出してきた経験から見る、成功する人の共通点とは

デザイナーズヴィレッジ制作室-1これまで多くのクリエイターが作業をしてきた制作室

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台東デザイナーズビレッジはアパレルブランドや、アクセサリーブランド等のファッション関連のクリエイターが集まる創業支援施設ですよね。10年以上に渡りクリエイターを見てきた村長が考える、成功するクリエイターの共通点ってあるんですか?

鈴木村長

共通しているのは、まず何よりも、成長意欲が高くて、色々たいへんなことがあっても、前向きに行動できる人です。また単に作るだけではなく、周囲との関係づくりも大事にしている人が伸びているように思います。

鈴木村長

デザビレでは、新しい入居者には一番最初に「君たちの仕事は製造することでも、販売することでもなく、ファンを作ることです」と伝えます。

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成功するコツは、モノを作ることやモノを売るだけでは無くてファンを作ることなんですね。

鈴木村長

そうです。例えば、入居から三年後にデザビレを卒業し、自分でお店を出したとして、応援してくれる人やお客様などからたくさんのお花を頂けるような関係性を作っていくことがミッションです。創業期のビジネスは自分一人では絶対成り立ちません。どれだけ周りに応援してくれる人が出来るか、購入してくれるファンがいるか、ヒトとの関係づくりが重要です。

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本質的ですね。

鈴木村長

ものづくりをするクリエイターは、作ったモノをお店に並べて、そこから選んでもらえばいいって考えるのが普通です。モノと自分の関係を考えるのは得意なんですよ。でも私は、モノを通じて向こう側にいるお客様と、どの様な関係を作るのかが大事だと思っています。関係を作る意識を持つことで、事業ですべきことがわかってきます。

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今、国内ではモノが売れないと言われていますが、昔と今でものづくりの環境は違いますか?

鈴木村長

10年前の市場の方が、クリエイター経験が浅くても、センスが良ければセレクトショップに入りやすかった傾向はありますよね。今はセンスがあっても、さらにスキルがないとかなり厳しい状況だとは感じています

 

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鈴木村長

最近洋服ブランドを立ち上げる人は、まず売れないことを前提にビジネスを考えますよね。だから雑貨もやろう、教育もやろう、と複数の稼ぐポイントを考えます。昔はそんな必要はなかったと思います。

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今は良いものを作っただけでは、もう売れない時代ですもんね。

鈴木村長

クリエイターみんなが同じ方法で伸びていくわけではありません。デザビレでは、入居クリエイターが「その人だけの成功法則」を見つけた時に伸びています。チャレンジを続けることが大切です。自分にできる範囲のことをただ繰り返しているだけの人は、そこそこの成長で終わってしまうことが多いです。

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トライアンドエラーの数が多ければ多いほど伸びているってことですね。会社や組織にも同じことが言えますね。

鈴木村長

モノと向かい合って「つくる」ことが得意な人は多いのですが、どうしても小手先のことにこだわり、試行錯誤の幅が狭くなってしまう。お客様とやりとりをしながら自ら変化をし、自分なりの商品や売り方、発信方法を見つけて行こうというタイプの人は少ないんです。受け身で仕事をしていて、積極的に新しいことに挑戦しない人が多いですよね。

鈴木村長

挑戦するためには、まず自分の仕事をどう定義するかも大事です。例えば、
・洋服を作る人
・新しいライフスタイルを提案する人
・新しいビジネスを創造する人
この定義によってそれぞれ必要な視点が変わるし、ビジネスの枠組みが変わります。視点の高さは、結局ビジネスの伸びしろだと思います。最終的な規模感が違ってくるし、挑戦する内容も変わります。

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それは確かに言えますね。どこまでやるかを決めるのは自分しかいないですもんね。みなさん大変な努力もされているでしょうが、行き詰まったりすることはないんですか?

鈴木村長

もちろんあります。クリエイターが何かに行き詰まり、自分の商品に自信がなくなった時に、自分の内面を見つめ愚痴をこぼしていても答えがでません。業界外でもいいので前向きに活動している人に会わせることがあります。すると、刺激になって、いい化学反応が起こるんです。

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確かにビジネスの世界でも、何かに悩み切った時は、人に会うことでインプットを得ることが大きいですよね。

消費が冷え込む時代での「モノ」の売り方。

革工場見学-min工場見学を積極的に開催し、背景を知った上でのものづくりを支援

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それでは、より具体的に、これからの時代でモノを売るためのヒントをお伺いしたいです。

鈴木村長

はい。私は「モノの価値=機能的な価値+デザイン的な価値+イメージの価値」として定義しています。機能やデザインだけでは優位性を持つのは難しい。だからお客様が「これが好き」「これが欲しい」というイメージの価値をどれだけ膨らませることができるかが大切です。お客様の頭の中でイメージが良かったら、高くても買ってくれるんです。もっとこのお客様にとってのイメージにアンテナを張り巡らせる必要があると思います。

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単に、機能がすごいとか素材がすごい、デザインが良いとかだけでは無いってことですね。

鈴木村長

「モノの売り方」というより、「欲しくなってもらうにはどうするか」というお客様を育てる発想が大事です。一般的に小売の人はその発想がありますが、つくり手の人はこれが弱い。

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良いものを作るために視野を狭くして、機能やデザインだけに集中しちゃいそうですもんね。

鈴木村長

私はクリエイターのみんなに、本人の魅力、仕事への姿勢、商品作りの背景、どんな使用シーンを思い浮かべるのか……といった商品だけでは伝わらない情報が多ければ多いほど、お客様は欲しくなって高く売れるよ、と言っています。

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それって今で言うWebのコンテンツマーケティングの要素みたいなもんですよね。

鈴木村長

少し前までは商品が良ければ自然とバイヤーが仕入れてくれたんです。それが今は商品が良くて当たり前。バイヤーや消費者にブランドの魅力を理解して、ファンになってもらうためにも情報発信は欠かせません

鈴木村長

この発信力を高めるためには、日頃からコンテンツ作りの練習が必要ですね。自分を中心としたメディア作りをするといいのですが、ものを作る人は苦手なんだよね〜これが(笑)

鈴木村長

これからは作り手側が苦労してでもSNSなどで発信するべきなんです。使い手や売り手から商品に対してフィードバックがあることが、結果的にいい効果を生むんです。お客様の嬉しい気持ちを感じるのが大事です。それを最初は下手でもいいから言葉で伝えること。もし言葉で伝えることが苦手なら、写真を出す、イラストを描く。とにかく自分で何かを発信していくべきなんです。

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なぜ鈴木村長はこれからのクリエイターにとって発信していくことが一番重要だと思うようになったんですか?

鈴木村長

それにはまず、先程もお話しした市場環境の要因があります。10年前であればクリエイターの商品を仕入れてくれるセレクトショップがあった。しかし今は仕入れではなく、自社で商品を生産するSPA(製造小売業)に業態が変わってしまったことで、クリエイターの販路がどんどん狭くなっています。

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なるほど。昔に比べ、大手の小売もかなりの割合で自社商品を作ってますよね。

鈴木村長

さらに小売の販売力自体も落ちています。無名の若いクリエイターの商品を売りきる力が小売の現場にありません。セレクトショップや百貨店の販売力が低下し、クリエイターの商品を発掘して売ることが出来ていない状況です。

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売りたくても、どうしても投資が出来ないんでしょうね。中には積極的な小売もありますけどね。

鈴木村長

例えば、現場のバイヤーが有名ブランドを仕入れて、もしそれが売れなければブランドのせいにできます。でも、無名のクリエイターを発掘して売れなかったらバイヤーが叩かれるんです(笑)これではセレクトショップや百貨店は経営の状況が悪いと若手の商品を仕入れにくくなります。

鈴木村長

私は以前から、つくり手が、自らの商品を自分で売らなくてはいけない時代が来ると思っていました。小売店を介在させずに、自分が消費者に対して直接売るしかなくなると思っていたんです。そこでお客様との関係作りのための発信が必要になってくるわけです。

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最近成功している地方のつくり手さんやショップは、やはり「発信力」に秀でている印象があります。

鈴木村長

そしてさらに発信が必要なもう一つの理由が、クリエイターと周囲の人達との関係性の重要さ。繰り返しですが、クリエイターで純粋に作品の質だけで伸びてる人はいないでしょう。本人のキャラクターも愛されて、応援したいと思うから仕事がくるんです。

鈴木村長

成長する理由って人それぞれで違うんですよ。例えば、ガチガチに計画して、それをかなりの高いレベルで遂行する人。はたまた、人付き合いが上手く、周囲とコミュニケーションを取りながら、自ら率先して周りの人の世話をし、商品を売っているような人。仕事に対する姿勢や生産背景、つくり手本人の魅力……これが十分に周囲に伝わって初めて成功するんです。別にネットに限らず、発信方法は何でも良いんだけど、これらが必要な理由です。

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人としての個性やコミュニケーション能力を伸ばすといったところですね。

鈴木村長

絶対にメディアに露出したくないと言っているつくり手がいました。本人は頑なに拒んでいたのですが、「自分を売る覚悟をしなさい!」と話をしたこともあります。作品もかっこいいし、その人自身も魅力的。考えていることも素晴らしいんです。これはもう出ないとだめでしょって感じでしたよ(笑)ビジネスをしないといけないので。しかし苦手意識があって、どうしてもやらないので、あえて圧力をかけたりもします。

後半はこちら ファッションクリエイターとして成功するには?

作者情報(一覧を見る)
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大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。