富山県高岡市の工業団地の一角で、仏具を生産する「小島製作所」。

明治30年代から机上香炉(きじょうこうろ)の製造を始め、現在は5代目となる若干31歳の社長が指揮を執ります。

机上香炉とは?名前だけではピンと来ない方も多いと思いますが、仏壇でお線香を立てるために灰を入れて使うあの香炉です。

「振り返れば、僕の人生で一番長い4年間でした」

幾多の困難を乗り超えてきた若手社長、小島大さんの目には、次なる全く新しい商品開発への情熱が見え隠れしていました。

小島さんの物語を伝えて、ものづくりに関わりがない人の心にも「なにか」を残せたら…。

いや、むしろ皆さん!若返りを果たして臨戦体制に入るこの老舗仏具工場の名前を覚えておいた方がいいかもしれません。

舞台は北陸、銅器の街。ものづくりのヒューマンドラマの幕開けです!

目次

 

テレビ制作現場から高岡の職人へ。突然のUターン

人生で決断のタイミングは、突然やってきます。

冬の気配が感じられる空気の透き通った朝のこと。小島製作所を訪ねると、小島さんが工場の脇に設けられた事務室に案内してくれました。
そこでまず伺ったのが、小島さんが高岡に戻るきっかけとなったプロポーズのエピソードです。

 

_MG_2839主人公の小島大さん。ゆっくりとおおらかで和やかな印象を受けます

 

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高岡にいた母親から『お父さんが病気になったから高岡に帰ってきてほしい』と急に電話があったんです。当時僕は東京でテレビ番組の制作をずっとやっていて、長く付き合っている彼女と一緒に両国に住んでいました。母からの連絡でひとまず実家に帰ったのですが、その時に、『もう自分が戻って継がないと』と腹をくくって、指輪を買い彼女の待つ両国に戻ったんです。

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2人でよく行く串揚げ屋さんに入って、座ってすぐに切り出しました。

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…なんて言ってプロポーズしたんですか?

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『高岡に帰ろうと思う。もし一緒についてきてくれるのなら、僕と結婚してください』でしたね。

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緊迫した状況の中、潔くて素敵ですねぇ。それに対して奥さんは?

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すぐに『はい』と言ってくれました。でも、その前に丁度お通しのキャベツが出てきてしまって、串揚げ屋さんの店員さんも『あっすみません』みたいな感じになっちゃって。

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(笑)拍子抜けしちゃったんですね。

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ええ。いまだにその時のことは嫁に怒られます。『何するにもすべてのタイミングが悪い』って(笑)

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おふたりが仲睦まじいのが伝わってきますけどね(笑)

こうして無事に婚約をした後、小島さんは東京から富山へUターン。専務として小島製作所に入社します。
3人兄弟で唯一の男子である小島さん。
東京で働きながらも、いつかは高岡に戻って家業を継ぐ覚悟だけはしていたそうです。

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親父は42歳で継いだので、僕もそれくらいかな、なんて漠然と思っていたんですけどね。それが、思わぬ形で時期が早まってしまったんですよ。

小島製作所で起こった波乱の世代交代

高岡に戻ってからの小島さんの日々は、これまでには経験したことの無い苦労の連続でした。他のどんな会社でもそうかもしれませんが、急な展開で親から子へと経営のバトンが渡されるタイミングでは、一筋縄ではいかない試練があったようです。

ゆっくりと言葉を紡ぎながら、小島さんはこれまでの紆余曲折を昔話のように語ってくれました。

 

_MG_2933小島製作所のある集合工場

 

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実は、今ウチで働いているのは、僕の入社当時とは全員が違う従業員なんです。

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…総入れ替えがあったってことですか⁉︎

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従業員にとっても、社長の代変わりがひとつのターニングポイントだったのかもしれませんね。工場長が、僕が入社して1年後に退職されて。実際に現場を回しているのは30年のキャリアをもつ工場長その人でした。親父はだいぶ年齢を重ねてから社長になったので、業務は現場の指揮よりも外への営業関係がほとんどだったんです。そんな状況でそこに僕が戻ってきたので、必然的に現場を仕切らざるをえなくなってしまいました。

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たった1年間で工場の舵取りを任されたんですね!入社当初は、何人くらいの従業員さんがいらっしゃったんですか?

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親父以外は4人です。当時小島製作所にいた従業員は先々代のじいちゃんの時代からの方で。みんな60歳を超えていて、親父が一番若いっていう状況でした。

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ベテランさんばかりだったんですね。たとえ自分のお父さんが経営者だとしても、その中に20代で入っていくのはなかなか度胸がいりそう…。

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実を言うと最初のうちは工場内でのけ者みたいな扱いを受けたこともありました。東京からものづくりのことなんか何にも知らない息子がひょこり帰ってきた、くらいに思われていたんでしょうね。

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それでも現場のトップに立たないといけないなんて…。

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そうなんです。その頃に親父は治療をしながら入退院を繰り返す生活になっていたのですが、まだ社長だったので『俺(小島さん)が仕切るなら新しい人を何人か入れて欲しい』と頼みました。当時はポツポツ求人を見て働きにきてくれる人はいましたが、入れ替わりが激しくて。そんなこんなで、一時は従業員が自分ひとりだけになったこともありました。

そして2015年の春にお父様が逝去され、小島さんは本格的に会社のリーダーとなりました。
机上香炉は、仏具全体の中でも比較的受注が多い商品です。ましてや、机上香炉の生産者は全国的にも少なく、その中で2寸、4寸の小型の机上香炉を製作しているのは、なんと日本でこの小島製作所さんだけ。

※1寸…約3㎝

 

_MG_2867これが2寸サイズの机上香炉

 

日本で唯一の生産機能を持つ工場ともあって、問屋さんからの注文は定期的に来ています。
それにもかかわらず、世代交代に伴う人手不足で生産効率が下がってしまい、売り上げは先代の頃の3分の1にまで落ち込んでいたそうです。

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正直、あー、このままじゃ潰れるな。って思いました。全然お金が足りなくて、金融機関からも借りられなくなってしまうほどで。どうしようもないので、『後で必ず返すから』と約束して、取引先の問屋さんに何度も頭をさげました。テレビ業界にいたときに一通りハードな経験はしてきたつもりでしたが、厳しい状況でしたね……。

こうして説明してくれた事実は私にとってはあまりにも壮絶で、思わず相槌の言葉をためらってしまうほどでした。
それでも小島さんは淡々と、穏やかに話し続けます。あまり感情を表に出す様子もありません。

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この時期は本当に追い詰められていましたね…。でも、ここで僕が諦めたら家族全員が生活できなくなってしまう。ずっと引き継がれてきた家業もなくなる。なにより、自分を信じて高岡についてきてくれた嫁さんを幸せにできないかもしれない。やるしかない状況でした。

お話を聞いている工場の事務所の外では、ひっきりなしに金属を削る音が響いています。そしてそこには、もちろん作業をする従業員の方々の姿も。でも、それが決して「当たり前」の状況ではないことに、はっと気づきました。

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今工場内を見渡すと、複数の職人さんがいらっしゃいますよね?そんな状態から、どうやってここまで仲間を集めたんですか?

 

_MG_28992階から撮影した小島製作所の工場内

 

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高岡市の伝統産業青年会で、富山大学の芸術文化学部の学生さんと一緒にものづくりをしていて、その子たちに学校が休みの期間中だけ手伝ってもらっていたんです。その中のひとりが、今もうちで働いてくれていて。他には23歳の若い職人が求人を見て工場まできてくれて、働いてくれる事になりました。それから徐々に体制が整ってきて、今に至ります。

※伝統産業青年会…高岡の若手職人さんで成る団体。若手ならではの視点で、伝統工芸の新しいあり方を提唱し続けている。

 

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小島さんも社長としてはお若いはずですが、さらに若い職人さんが徐々に増えてきたんですね。きっと高岡の中でもこれだけ平均年齢が若い工場はなかなか無いですよね。若い力が沢山で、可能性を感じます!大変な状況が改善されているようで、お話を聞いていてホッとしました。

今回小島さんへのインタビュー取材が決まったのは前日(深夜2時)なんです。以前取材させて頂いた折井さんの工場で偶然お会いして、ご好意で皆さんと一緒に飲みに連れて行ってもらったことがきっかけでした。

 

_MG_2847小島さんがもがきながらも育成した若手の職人さんは、今では工場の立派な戦力です

 

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周りの人は『アッという間やね』というけど、僕にとっては高岡に戻ってきてから、今までが人生で一番長い4年間でした。従業員もみんな入れ替わって、教えながらも、それまで自分は別の仕事をしていた訳だから、自分も学んでいかないといけない。ふつうの職人ではあまりない状況です。それしか方法がなかったんです。どうしてもわからないところは周囲の職人さんに教わりに行くこともありました。

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周りに先輩職人さんがたくさんいらっしゃるのが、ものづくりの発展している高岡ならではですね。

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そうですね。父は明るい人だったので、周りの職人さんとのつながりも強く、それで僕もよくしてもらっているという面もあります。本当にありがたいことですよね。

これだけでも十分大変そうなのに、小島さんは先ほど話に上がった高岡市の伝統産業青年会で委員長も務めています。2015年の夏には、東京でイベントも行いました。

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お忙しい中で会社だけでなく青年会のトップにもなるなんて…。そのパワーは一体どこにあるんですか?

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高岡の人たちは事情を知っているので、委員長に就任した当時はみんなすごく心配してくれました。『無理してやらないでもいいんだよ、断ってもいいんだよ』と言ってもらったこともありました。でも、負けず嫌いなんですよ、僕(笑)

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負けず嫌いというと?

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こんな状況でも、『出来る』ってことを周りに分かってほしかったんです。心配なんて余計なお世話だ、くらいに思ってました。こんなこと言ったら怒られちゃいますけどね(笑)

穏やかで物静かな小島さんが内に秘めた”アツさ”がちらりと顔をのぞかせました。困難を乗り越えてなお、新しいプロダクト作りに着手するほどのパッションはきっとこんな部分にあるんでしょうね。

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東京の大きなイベントはどちらでやられたのですか?

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伝統産業青年会で毎年、東京にある『2k540』でイベントをしています。今年(2015年)は自分がリーダーをやるからこそ、今までにない斬新なものにしたいと思ったんです。

※2k540…東京・御徒町エリアの高架下に広がる、ものづくりをテーマとした施設。

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どんな内容だったんですか?

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芸人さんに来てもらって、高岡の大使として丸1日イベントの司会をやってもらったり、大きなパネルに高岡のいろんな工場での作業風景の写真を印刷して展示したり…。

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おぉとても斬新ですね。一般的な物産展なんかとは全然違ったイメージですね。

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青年会でやるんだから、自分たちと同じ若い世代をターゲットにしてこそ意味があると思って。新しい取り組みな上にコストもかかるので、他のメンバーに随分反対されました。でも、絶対やるといって押し通しちゃったんですけどね(笑)

こうして無事にイベントを遂行した小島さん。そんなパワフルな人でもなければ、工場の若返りを果たすことに成功できなかったかもしれません。

会社を立て直し、世代交代で起きた荒波を乗り切った小島製作所は現在、次なる未来に向けて、新プロダクトの開発を続けているんです。

まずは新プロダクトの前に、小島製作所での気になるものづくりの様子をご紹介します!

 

小島製作所のお仕事工程

小島製作所のものづくりをチラッと覗かせてもらいました!

 

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大人の腰くらいの高さまである、大きな溶解炉。
ゴォォォという大きな音が鳴り響き、中心の穴の中で金属のかたまりを溶かします。

 

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溶かした金属は専用の型に流し込んで冷やします。小島製作所では、特殊なコーティングをされたシェル砂で型をとる「シェル型鋳造」を採用しています。

 

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机上香炉の形が出来上がったら、奥の研磨用の機械(グラインダー)で職人さんの感覚重視で仕上げられていきます。

 

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仕上げ終了後の机上香炉。一つ前の写真と比べてみてください。ピッカピカです!

 

若手職人と企む新商品の開発

机上香炉の生産が安定してできるように復活した小島製作所ですが、どうやらそれだけがゴールではないようです。

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前から新しい商品をつくりたいとは思っていて。大学生でウチに来てくれている子に『新しいことやりたいんだけど一緒にやらないか?』と聞いてみたんです。そうしたら話に乗ってきてくれて、今準備を進めているところです。

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小島さんの工場で新しいプロダクト開発が行われようとしているんですね!どんなものができるんだろう……新しいファクトリーブランドの誕生ってワクワクしますね!

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まだはっきりとした形ができたわけではないのですが、詳しいことは一緒に企画をしている本人に聞いてみた方がいいかもしれませんね。

職人さん達が忙しく働く工場内から小島さんが呼んできてくださったのが、吉備津和真さん。
現在も富山大学に在籍中で、小島製作所でも立派な職人の役割を担っています。

 

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はじめまして。新商品の開発を任されているということですが、お話を聞かせてもらえますか?

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はい!まず僕が小島製作所に入ったのは、2年前くらいの、まさに小島さんが社員不足で苦労している時期でした。

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富山大学の学生さんで、一人工場にとどまってくれた子がいるお話を、先ほど小島さんから伺ったのですが、それが吉備津さんだったんですね。

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そうです。その頃は会社の状況はかなり厳しかったと思います。そんな時でも小島さんは新商品のことを考えていて、僕は他の工場にアルバイトで入って小島製作所では出来ない技術なども学んできたんです。

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小島さんとの新しいものづくりを見越して?素敵な信頼関係ですね。小島さんは大変な状況でもやっぱり狙っている企画があったんですね。

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僕が『こんなのどう?』とぼやいたことを元にして、吉備津が図面に起こす。それを原型師さんに頼んで型を作ってもらう。そして工場内の秘密のスペースで試作を重ねている感じです。

試作の初期段階では吉備津さんが自ら木や石膏で型を製作し、そこに金属を流し込んでサンプル作りをしています。日常的にこの部屋でプロダクトの試作が行われています。密室になっていて秘密基地さながらの様子です。

 

_MG_2904原型師さんが作った型に砂を入れて踏み固め、そこからサンプル用の型をさらに作ります

 

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吉備津さんは大学で得たものづくりに関する学びを実戦で活かしているんですね。工場で職人の一人として働いてみて、なにか変化はありましたか?

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単純に何かを作ることが好きで、それを仕事にできたらと思い、大学でものづくりを学んできました。でも、社会との結びつきを持つ今は、どのような商品を作れば、人が手に取りやすい値段になり、必要なスペックの商品になるのかをすごく考えるようになりました。実際に工場で働いてみて、大学とは違う現場の難しさや、可能性の大きさを実感しています。学生だけではやれることが小さいですが、視野がとても広がりました。

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しっかりしてるなぁ…(思わずつぶやく)。社会に出る前にもうそんな経験をしているなんて…卒業後も職人として働く予定なんですか?

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以前は自分が納得できる作品さえできればよかったけど、今は会社のために技術を役立てたいという気持ちです。ゆくゆくは小島製作所に正式に入社して、自分達が作ったプロダクトを手に取った人が幸せになるものづくりがしたいです。

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僕が新しいことをやるのは実は焦りもありますね。仏具の売り上げ自体も下がっているので、まだ注文をいただいているうちに考えないと。会社の存続のためにも、時代にマッチした商品を自社で持っていることが強みになると思っています。

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折井さん二上さんのように、近くで実際に新しいものづくりのジャンルで成功されている会社さんがあると刺激にもなりそうですよね。高岡の素晴らしいところは、こうしてそれぞれの工場さんが新しいことにチャレンジしようという姿勢を持っているところだと思います。

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そうですね。職人同士で飲みにいくこともしょっちゅうなんですが、その時は朝方までアツいトークが続きますよ(笑)

大学生の小島製作所のルーキー吉備津さんとの相性もバッチリの様で、今後どんな商品が生まれるのかとても楽しみです。

なのでみなさん、今のうちに小島製作所と、その仲間たちのことを覚えておいてくださいね。

 

ものづくりのものがたり「職人さんのストーリー」

ストーリーのあるものづくり。それは、そのモノができる過程だけをさすのではなく、職人さん自身の生きてきた物語が反映されているものづくりのことも意味するのではないでしょうか。だからこそ、その職人さんの「想い」や「これまで」にも大きく比重を割いてお話を聞く必要があると思うんです。

セコリ百景の取材に対応してくださるのは、ほとんどがその工場の社長として従業員の生活を背負っている方です。そんな方々のお話から私が学ばせてもらえることはすごく多いんです。自分にはその重みが100パーセント理解できるわけじゃないけれど、人の上に立って、さらに新しいことを始めるパワーのすごさと、その苦労を痛感します。

痛感してるだけじゃなくて、自分ができることって…?メディアに関わる私たちは「伝えること」をきちんと丁寧に続けていこう。と、心に誓う日々です。

インタビューが終わると、ちょうどいいタイミングで小島さんの奥様が工場にいらっしゃいました。腕にはお子さんを抱っこして。小島さんが守った家族と工場の先には、明るい未来しか想像できません。


作者情報(一覧を見る)
shiori
山越 栞

フリーランスライター・編集者
「日本のかっこいいところを見つけて、もっと多くの人に伝えたい」そんな想いで執筆・編集などに携わる。10代から始めた茶道は現在も勉強中。