「この実家の家業は高校を卒業してから始めたのですが、最初は好きではなかったんですよね。」

そう話すのは、東京下町の印刷加工に関わるものづくりを結集しこだわりの紙文具を作る”印刷加工連”を構成するリーダー的役割の1社、篠原紙工の篠原社長

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「大学受験に失敗して『受験勉強もやりたくないし何かをして働こうか』とバイト等を考えていました。当時、自宅の一階が作業場だったので『近いし便利かな?』なんて軽い感覚で、製本業を手伝い始めました。」

「正直に言うと、当初は特に家業を継ぐつもりもなかったんですよね。」

そんな、篠原さんが「ななめリングノート」や「メモパッド」に代表されるシンプルさゆえ、独特の品を持ち、加工や製本の技術が詰まった紙文具シリーズを作り、いまや各方面からも支持される様になった理由を今日は解剖していきます。

印刷加工連のものづくり 目次

・印刷加工連の誕生の秘話
・おもしろい文房具のカラクリ
・印刷加工連の美しい封筒
・印刷加工連のメモパッド製造のこだわり
・伝染していくものづくりの楽しさ
・若い人にも魅力的な製本屋をつくりたい

印刷加工連誕生の秘話

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印刷加工連は
・篠原紙工
・小林断截
・東北紙業社
・鈴木製本
・コスモテック
・ALL RIGHT
異なる特徴・技術を持つ下町の6社からなる、印刷・加工のエキスパート集団です。

技術の高い複数の会社からなるプロジェクトのため、製本・穴あけ・折り・綴じ・型抜き・箔押し・空押し・浮き出し・紙象嵌・シール印刷・活版印刷等それぞれの会社の得意な分野も多岐に渡ります。

そんな各社の得意分野を活かし、使う人のイマジネーションの基となるものづくりを念頭に、シンプルで使い勝手の良い紙文具を生み出しています。

そんな印刷加工連スタートのきっかけは、篠原紙工の篠原さん、小林断截の小林さん、鈴木製本の鈴木さんが所属する、製本組合の30周年記念パーティーでの記念品作成でした。
「パーティーでの記念品をどうしようか?」30名程で集まって議論していた時の出来事。

「バームクーヘンはどうだろう?」
よくありがちな普通の記念品を誰しもが想定して議論が進む中、篠原さんが口火を切ります。
「せっかくの30周年という節目なので、紙で各社ごとに記念のアイテムを作り、玉手箱のようなものに入れて、配るのはどうだろう?」と提案します。
篠原さんは笑いながら当時を振り返ります。「その場の皆さんの空気はドン引き」でしたよ。

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それもそのはず、製本業とは基本的に印刷会社や文具メーカーを顧客としており、発注が来たものを作るところです。

つまり、今までにない発想で、製品を企画し、デザインし、製作する等の工程はほとんどの会社がやったことがありません
断裁は断裁だけ、箔押しは箔押しと専門分野に特化している企業も多い業界で、どこの会社も当時はその篠原さんの呼びかけに及び腰だったそうです。

しかし篠原さん。ここでは簡単にあきらめませんでした。
記念品制作を自分に一任してもらい、会場にいた30人のなかで、玉手箱の案に興味を示していた、小林断截・鈴木製本の2社を誘い、3名で記念品作成プロジェクトをスタートしました。

どんなものを作ると面白いかを考えていて「式典のプログラム自体が箱になっていて、その中に紙で作ったものが入ると面白いのでは?」というイメージだけは当初からあったそうです。

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ただ、3名とも製本業なのでデザインの技術や知識はあまりありませんでした。
そこで仕事で付き合いのあった、ALL RIGHTさんにデザインをお願いしたそうです。

「予算は無いです。でもこのプロジェクトにはお金以外のメリットはきっとあると思うんです!」
篠原さんはそんな熱意を周囲に伝染させて行きました。

お金ではなく目的の共有や共感にこそ、印刷加工連のものづくりの原点があります

思いが伝染し始め、その後はアイディアを出しあいつつ「箔押し(はくおし)もやりたいからコスモテックさんに声をかけよう!」

※箔押し 熱した凸版で箔を圧着する技法

DSC01117【箔押しで罫線を作成した「印刷加工連」の便箋】

「表紙はシールではなく、紙象嵌(ぞうがん)にしたら面白いから、東北紙業社さんに聞いてみよう!」

※象嵌(ぞうがん)象は「かたどる」、嵌は「はめる」と言う意味がある。象嵌本来の意味は、一つの素材に異質の素材を嵌め込む技法。

次々とアイディアを形に出来る会社を探した結果、現在の6社が集結しました。

多種多様な価値観の人を巻き込み、試行を重ねて出来上がった記念品がこちらです!全てが紙で出来たとは思えない作品です。

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IMGP8116【細部みても紙とは思えない高級感のある質感です】

印刷加工連のおもしろい文房具のカラクリ

もともと、記念品作成のプロジェクトだったので、式典の終了と一緒に印刷加工連は解散の予定でした。
しかし式典後の打ち上げで「このまま解散するのもったいないよね。」という話になり、1年間の期間限定で印刷加工連のプロジェクトをスタートしたそうです。

なぜ現在の加工連のLラインナップが文房具なのでしょう?
それは何よりも篠原さんが文房具好きだったこと、「式典の記念品は販売しないのか?」と問い合わせがあったからだそうです。メンバーそれぞれも文房具にこだわりを持っていたものの、本当に自分が欲しいと思う文房具がなかったため「それでは、自分達で作ってしまおうか。」と決意したことがきっかけです。

発足当時は採算性に疑問があったので、各社から5万円の予算を出し合ってスタートしたそうです。

はじめはとにかくアイディアを出しをします。
・採算性
・実現の可能性
・技術限界
制約となることを一切取っ払って、アイディアを出しあったそうです。
篠原さんは当時の沢山の資料を見せてくれました。

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資料にしろですが、篠原さんの発想には会社の二代目の方とは思えないベンチャースピリットを感じました。
全く独立した6社が一緒のプロジェクトを進めるにあたり、目指す姿を決めたり、各社の役割を決めたり、収益の分配を決めたり、ロードマップを決めたりと決めるべきことが本当にたくさんあったそうです。

そんな中「儲かる・儲からないとかを考えることはせず、面白いものを作れるか」にフォーカスしたそうです。

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“面白いもの”を考える中でも色々発見があったそうです。

「これまでの取引(印刷会社・文具メーカー)では使う人(最終の消費者)とはほとんど接してこなかったので、発注者の喜ぶこと、嬉しいことは分かってはいましたが、消費者が嬉しいものに関しては手探りでした。同業者同士の『これすごくない?』が一般の人には全く共感されなかったり、逆に同業者では当たり前のことが、一般の人にうけることもありました。」と篠原社長。

「一般のお客さんの反応を確認することで、使う人が喜ぶ”面白いもの”が作れるようになりました。それまでは、その”面白いもの”に温度差があることすら知らなかったですね。」

印刷加工連の輪郭がだんだんと見えて来ました。次からは、いよいよ商品の中身へと話を移して行きます!

印刷加工連の美しい封筒

印刷加工連では以下の体制で商品開発をしています。

・アイディア〜企画は6社で集まり実施
・試作などを重ねる
・最終的な製造は1社ないし2社で実施

ここからは、この体制で生み出される商品たちの魅力に迫っていきましょう。

この写真の封筒。実は封筒の固定概念を崩した商品と言えるかも知れません。
通常の封筒はのりしろとなる部分を作成し、そこをのりづけします。

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ですが、印刷加工連で作っているものは、長方形の紙を折り曲げて作成しており、のりしろの部分はありません。
もちろん以前にもこの作り方の封筒はありましたが、薬局の処方箋の袋や、映画のチケット。少し古いものだと写真のネガ入れに使うものでした。これらに共通するのは、すぐに捨ててしまう封筒ということです。

しかし、その安価なものと認識された既成概念を破って、上質な紙を使い、丁寧に箔押し(職人さんが一つ一つ丁寧に箔押しする。でないと並行で美しいラインが出来ない。)することで、のりしろ部分のゴチャゴチャ感が無くシンプルで美しいシルエットの封筒が完成しました。

細かい事で普段は気付けないですが、よく見ると本当に綺麗な形をしていて無駄がなく美しい封筒です。

「ちょっとしたお祝い金を包んだり、手紙をいれたりと、仰々しすぎず、安っぽくない丁度良い形を目指しました。」と篠原さん。
この封筒も今では印刷加工連の定番の人気商品です。

印刷加工連のメモパッド製造のこだわり

 

ここでは封筒に続き、印刷加工連でのメモパッドの作成についても詳しくお伺いしてきました!

メモパッドは、カバンなどに入れても記入面が汚れないように、表紙のあるメモを作りたいという想いから作成しました。

なかでも一番のこだわりは、メモのヘッダーの部分。

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ヘッダーの部分と噛み合う部分の端っこをななめに切り、表紙が少し引っかかるように工夫しています。

実はこれは、断裁する際に紙がどう切れるかを熟知していた篠原さんだからこそ生まれたアイディアでした。
断裁の刃は片刃で、厚い紙を切ると刃の有る方の断面がななめになってしまいます。
普通はこのななめになっている部分は製品に向かないため、切り落としていました。

ただ、今回のメモパッドはあえてななめに切れている断面を残し、表紙の引っかかりとして使っています。

メモパッドはひとつひとつを職人さんが手作業で加工します。

ノート紙をとめるための針金も、足でペダルを踏むと針金が通る機械(大きなホッチキスのようなもの)で丁寧に打ち込みます。

00DSC01145【篠原社長が実演してくれました】

打ち込んだままでは針金部分が少し出っ張ったりしてしまいます。
そこを金属製のハンマーで針金部分を叩き、出っ張りをしっかりと潰します。

表紙の厚紙の可動の部分は、ハーフカットという方法で、紙の折り目に厚みの半分まで切り込みを入れ、折り曲げやすくする加工を施しています。

メモ一つ取ってもにもこれ程の工程が存在します。

印刷加工連の製品は「技術をこれみよがしに使い過ぎない、デザインをし過ぎない」ことに注意を払います。

「実際に手に取る人の立場になることが大切で、使う人は技術にお金を払っている訳ではないですよね。なので、これでもか!というような箔押しなどは避けているし、シンプルなデザインを心がけています。」

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伝染していく、印刷加工のものづくりの楽しさ

冒頭で篠原さんが「特に家業を継ぐつもりもなかったんですよね」と言ったエピソードを紹介しましたが、言うまでもなく、今現在はこの仕事に情熱と誇りを持って臨まれています。

篠原さんが家業が好きではなかったのは、自分の父親の会社が製本の会社なのに、紙の断裁のみ、チラシの折込、16ページの中綴じなどしか作成しておらず、本を作っていなかったからだそうです。
子供ながらに「製本屋と言いながら本なんて作っていないじゃないか!」と恥ずかしく思っていたそうです。

IMG_4452【実際の現場のお仕事でも見事な手さばきを見せてくれた篠原社長。この機械素人にはとても扱えそうにありません。】

篠原さんは高校卒業後、バイトとはいえ篠原紙工で働き出し、一日中機械をいじっている事がとても楽しかったそうです。
「もともとは機械をいじったりすることが好きでしたよ。」

働き出して数年が経ち、あるとき気が付くと自然と家業が大好きになっていたそうです。

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若い人にも魅力的な製本屋をつくりたい

篠原さんは以前の自分と、現在の自分を比べて考えた際に「今の若い人は製本という仕事は嫌いなのではないか?
今働いている社員も本当に好きで働いているのだろうか?」との考えに至ります。

「若い人もやってみたい、働きたいって思える製本業ってどういうものだろう?」
そんなことを考え理想の会社を目指すうちに、ただ断裁や加工をするだけでなく、色々な製品を手がける様になったそうです。
そして、記念品プロジェクトをきっかけに印刷加工連という形で、会社対会社から、さらに、会社対消費者までお客さんのほしいものを企画し、製作する仕組みをカタチにしました。

『ここ、印刷加工連では自分たちのアイディアが形になる。』

そしてこのプロ集団の技術の高さと情熱が、風に乗るように伝染し、多くの人を惹きつけ始めていると感じます。
篠原さんのお話を聞いていると、印刷加工連という最終の消費者に近い場所から、あふれて行くように、ものづくりの面白さが人々に伝染している気がします。

これまでは求人をかけても「製本屋で働きたい!」という人を見付ける事は困難でした。

しかし今では少しずつ、求人を出さなくても、働きたいという人が来るようになったそうです。これは印刷加工連に関わる会社さん共通の変化です。

「今後は、更に夢をもって入社してくる人が増えることを目指しています」と篠原社長。

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今回お邪魔した篠原紙工さんのオフィスもとてもきれいで広々。まるでデザイン会社の様な空間でした。
きっとこれから先も、どんどんこの魅力あふれる下町のものづくりの拠点に人が集り、つながりが生まれ、新しい価値が発信される、そんな時代が来るのではないか。---そんな魅力溢れる、素敵な篠原紙工さん。
印刷加工連と篠原紙工の今後の動きには大注目です!

 


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大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。http://www.brightlogg.com/