「良いものに修飾語って必要でしょうか」

めちゃくちゃかっこいい心意気だなと思った、『FUTAGAMI』を展開する株式会社二上の社長、二上利博さんのひとこと。

この言葉に私はハッとさせられました。

国内のものづくりにおいて、「どこどこ産の良いもの」「だれだれが作る良いもの」など、こだわって作られているものにこそ、飾りの言葉をつけたくなってしまいがちです。でもその飾りの部分に注目しすぎるあまり、本質を見失っては意味がありません。

ペンダントランプ等、インテリア商品が人気のブランド『FUTAGAMI(フタガミ)』の拠点は富山県高岡市。

ものづくりの盛んな、周辺の同業者の方々からも一目置かれる存在の二上さんは、どこまでも芯が通っていて、このスタンスこそが、FUTAGAMIのものづくりのアイデンティティのように感じました。

今回は、そんな二上さんが率いる工場のブランドの素顔に迫ります。

※鋳物(いもの)・・・高温で溶かした金属を型に流し込み、冷やして成形した金属製品

※鋳物(いもの)の産地として、数多くの金属加工工場が軒を連ねるものづくりの街に、1897年(明治30年)に創業した歴史のある会社。

もくじ

 

使う人の顔が見たくて生まれたFUTAGAMI(ふたがみ)シリーズ

二上さんの工場では、古くから仏具の一種である輪灯(りんとう=飾り照明)を専門に生産してきました。しかし、問屋さんからの発注ありきで成り立つものづくりに、4代目の二上さんは違和感を抱いていたそうです。

※仏具…仏教の儀式でお坊さんが使用する道具、もしくは家庭の仏壇に備える道具。

 

_MG_2962オリジナルブランドと同時並行で、仏具の生産は現在も行われています

 

二上さん「これまでの商流だと作り手の私たちには、実際にどんな人に製品が届いて、どう評価されているのかが全く分からないんです。そういった流通の形ではなくて、直に使い手の声が自分たちにも届くものをつくりたいという想いがずっとありました」

また、「輪灯=飾り照明」は仏具の設えを簡略化しようとした時に、仏具の中でも真っ先に購入を省かれてしまう道具です。消耗品ではないうえ、核家族化が進む現代では若い世帯には仏壇すらないことがほとんどです。今後、市場が縮小化していくことが目に見えている中で、会社の存続の面でも、二上さんはもうひとつの柱となる商品が必要だと感じていたのでした。

そんな背景から誕生したのが、オリジナルブランドの「FUTAGAMI」シリーズです。


_MG_3001FUTAGAMI初期のころからある栓抜きは、少しずつ微調整が加わっています

 

二上さん「県のデザインセンターで定期的に開催してるワークショップがあるのですが、これに参加していたデザイナーの大治将典さんのお手伝いをして、栓抜きのプロダクトを作ったのがきっかけでした。その後、ものづくりに対するお互いの想いを話すうちに共感して、彼をディレクターとした『FUTAGAMI』が誕生したんです」

※デザインセンター…正式には富山県総合デザインセンター。「新クラフト産業・デザインの育成」「伝統工芸の保存・継承」「デザイン・工芸の啓発・普及」を活動の三つの柱とし、プロダクトデザイナーと工房をつなぐ役割を担う。

ブランドが走り出したのは2009年の1月でしたが、その年の6月に行われるインテリアライフスタイルショーに出ようということになり、急ピッチで準備をして出展にこぎつけたそうです。そこで高評価を得て、初出展にもかかわらず「All About スタイルストアアワード」を受賞するという華々しいデビューを飾ったのです。『FUTAGAMI』シリーズはここから各地のセレクトショップなどで取り扱われはじめ、商品のバリエーションを増やしていくことになります。

※インテリアライフスタイルショー…東京から国内外へ向けてライフスタイルを提案する、インテリア・デザイン市場のための大規模な国際見本市。

まずはなんといってもこの洗練されたデザインに目を惹かれますが、「FUTAGAMI」シリーズの魅力はそれだけではないんです。

 

tape710持ち上げやすいテープカッター

 

二上さん「FUTAGAMIの商品は『買ってからがスタート』です」

買ってからがスタート…?どういうことなんでしょうか?

二上さん「本来、商品は完成品をピークの状態でお客様に買ってもらうという認識ですよね。でもそれだと先にはおとろえしかない。そうではなくて、使いこんでこそ、その人のものとして完成されていくイメージです」

真鍮(しんちゅう)は、空気に触れると酸化して、時が経つほどに見かけが変わっていきます。一般的にはこの経年変化を防止するために最終段階で表面に加工を加えます。しかし、『FUTAGAMI』シリーズではあえてそのままの真鍮の持ち味を楽しむというコンセプトを打ち出しました。経年変化とは、他の素材、たとえば革製品などにもみられる酸化作用です。

二上さん「経年変化は、酸化作用なので放っておいたって起こります。ただ、その人の扱い方によって風合いが全く変わってくるんです。大事に手入れされているものは「熟成」、放置されているものはただの「劣化」と呼んでいるのですが、その差は一目瞭然です」

「買ってからがスタート」とおっしゃった理由が分かってきましたね。では、プロの目から見た金属の「熟成」とは、どんな状態のことを指すのでしょうか?

二上さん「真鍮でできたドアノブなんかが分かりやすい例です。長年使われているものは表面がつやつやになっているでしょう?あれは人の手脂がついて、その上で経年変化が起きている状態なんです。『FUTAGAMI』の商品も、ずっと使っていると段々とつやが出てきたり、たくさん触っている部分だけ色が変わってきたりします。その人の使い方に、モノが馴染んでいくんです。また、新品同様の見た目を維持したければ、こまめにヤスリやブラシをかけたり磨いたりする方法もあります。その人の好きな風合いを作り出せるところもポイントです」

実際に経年変化がわかる商品を見せてもらいました。

 

a_MG_3008

 

これは新品の商品。三日月型の栓抜きです。

 

a_MG_2980

 

対して、これはしばらく経った鍋敷きの商品。まるでそれぞれの個性みたいに、風合いの差が目に見えてわかります。

二上さん「長く使うほどに愛着が湧いてくるものづくりを心がけています。使い手の方の中には『育てる』という表現をしてくれた方もいました。『だんだんいい感じに育ってきました』って」

「FUTAGAMI」が理想としている使われ方がしっかり使い手さんにも浸透していますね。自分がどう扱うかによって見た目が変わってくるとなると、まるでその商品に命があるように大事にしたくなります。まさに「育てる」という気持ちが芽生えるのも納得しました。

 

FUTAGAMI(ふたがみ)ファンが汗を流す高岡の工房

周辺の工場に比べて二倍の敷地面積を持つ二上さん。会社としての勢いを感じずにはいられません。工房内の様子はこんな感じ。

 

_MG_2965商品を作る際に切り出された残りの部分は、もう一度溶かして再利用

 

_MG_2957溶かした真鍮を流し込むための型をおこします(=造型)

 

工房を見学させていただいて、若い職人さんも多いことに気がつきました。
どんな人が、どのようにしてやってくるのでしょうか?

二上さん「うちの商品が好きだから、それをつくっているところで働きたいと言ってくれる人も少なくありません。今までは職人というのは避けられる仕事というイメージでしたが、ここ最近は美大を出た新卒の応募も増えてきました」

 

_MG_2968若い人が活躍する二上の工場

 

とはいえ、二上さんでは大々的に求人を出しているわけではないというから驚きです。若い人がどんどんやってくる現状からも『FUTAGAMI』の商品が会社に与えた影響はかなり大きい様です。

 

_MG_2950最終工程の仕上げ・検品作業

 

二上さん「私自身も現役で職人として手を動かしています。朝の7時から始まって、なんだかんだ夜遅くまでやっています。1日が24時間じゃ足りないくらいです…」

作ること以外にも展示会の準備をするなど、仏具の生産だけを行っていたころとは環境が変わり、二上さんはとっても忙しそうです。そこで工場としては今までなかった、募集を始めました。

二上さん「お客様と職人との間に入ってオーダーを反映させたり、展示会の際のアテンドをしたりと、管理や広報の役割を担ってくれる人を初めて募集することにしました。ニュートラルに、正しくものの良さを伝える人が必要だと感じています」

これからは工場も広報に力を入れる時代なんですね。これにも多くの応募が集まったそうです。会社のホームページやフェイスブックのみの告知にも関わらず、十分なキャリアのある人や、仕事で取引があった方まで…!予想外の反響に、二上さんは驚いていらっしゃいましたが、新しい挑戦で洗練された商品を生み出している会社ともあれば、決して不思議なことではないですよね。

ところで、ものづくりの現場を取材していると、オリジナルブランドを作る際に自ら商品のデザインをしている職人さんにも多く出会います。二上さんが最初からデザイナーさんと共にものづくりをしているのには、何か考えがあるのでしょうか?

 

FUTAGAMIの考える「ものづくり×デザイナー」のかたち

IMG_3753真鍮・鋳肌の文具トレイ

 

二上さん「いや、それは単純なことです。デザインって私は簡単じゃないと思うんですよ。真似はできるかもしれないけれど、そこで価値を生み出すのはそう簡単には行きませんよね?うちの場合は少し特殊ですが、デザイナーさんと『いっしょに生きて行く』覚悟で信頼関係を築いています。だから何人ものデザイナーさんとものづくりをすることはなく、ひとつのブランドには1人のデザイナー、さらにその人にはディレクターという立場でブランドの全体の世界観を統一してもらっているんです。ブランドの価値を長く伝えていこうとすると、こういった関係性が必要だと思うからです

2015年の2月には、「FUTAGAMI」から派生した住宅金物のブランド「MATUREWARE by FUTAGAMI」をスタートしました。こちらのディレクターを務めるのは、なんと以前ここで職人をしていた経歴もあるデザイナーの山崎義樹さんです。※この山崎さんは以前訪れたへら絞りの0namiシリーズのデザイナーさんでもあります。

二上さん「大治さんと山崎さんは世界観も似ているので、違和感なく新ラインを広げることができました。大治さんには全体の監修もお願いしつつ、これからは山崎さんの力も加わって『MATUREWARE』の商品を増やし、将来的には家にあるもの全部の商品をうちのブランドで作れたらなんて思っています」

そう話して微笑んだ二上さん。静かな物腰のなかにも、ものづくりに対するエネルギーが満ち満ちているように感じました。

そのエネルギーの原動力はどこにあるのか伺ってみると…?

二上さん「一番は『やりたいから』です。新商品のアイデアを考えているときに、こういうものをつくるなら、さらにこんなのも欲しいな…なんて自分たちが『あったらいいな』と思うものがどんどん出てくるんですよ」

だから、月に1回ほどの頻度で行われるデザイナーさんとのミーティングでは、「何をつくるか」という投げかけを改まってする必要はそれほどないそうです。

二上さん「いつもまずは『今日は何食べにいく?』みたいな会話から始まるんですよ(笑)食べたり飲んだりしながら一緒に過ごしているうちに次々とアイデアが出てくるんです」

 

kezuri kuromura人気商品の、黒ムラ仕上げのペンダントランプ

 

信頼するデザイナーさんと、本当にいいものだけを突き詰めていくものづくり。決して楽なことばかりではないけれど、ブランドを始める以前の受注生産体制ではけっして成し得ないやりがいがそこにはあります。

二上さんが初めに抱いていた『使い手の声を直接聞きたい』という願いは実現できたのでしょうか?

二上さん「それが今は直すぎるくらいです(笑)。商品の手入れや経年変化の状態の良し悪しの見極めなどについて、直接お客様からの問い合わせをしょっちゅういただきます。そのときは、先ほどの『熟成』と『劣化』などの説明をていねいに伝えるようにしています」

着々と、思い描いていたものづくりのカタチを実現して行っています。
IMG_0150towelhanger真鍮のタオルハンガー

 

二上さん「2016年の3月頃には、オフィス兼ショールームができあがる予定です。住宅展示場といったほうがイメージしやすいかもしれませんね。カトラリーや栓抜きのような『FUTAGAMI』の商品のほか、『MATUREWARE』の表札や壁面につけるスイッチカバーなど、増えていくアイテムも全部しつらえて、そこでの飲食も可能にします。実際に暮らしの中に商品がどう取り入れられるのか、どう動くのかを、施工事例のようにして、より多くの人に体験してもらえるような空間にしたいです。そこではあえて少し生活感を出していきたいと思っています」

これは楽しみです。また高岡の伝統的なものづくりに新しい風が吹きそうな予感です。

ただ「良いもの」それだけでいいじゃないですか。

ここで、記事の最初の言葉を思い出してみてください。

「良いモノに修飾語は必要ない」

 

_MG_2983

 

このフレーズはそもそも私が「二上さんにとって『ものづくり』とはなんですか?」と、漠然とした問いかけをしてしまったことがはじまりでした。

二上さん「それは…うーん…難しい質問ですね…。なかなかすぐには答えられないな…」

二上さんを困らせてしまいましたが、インタビューを続けていくうちにその想いがだんだんと見えてきました。

二上さん「私たちはただ、良いものが作りたいんです。そこに修飾語がつくと、人々にとってそれが固定観念として根付いてしまう。だから、ただ、良いものでいいじゃないですかって思うんです

これはひとつの真理かもしれないと、百景の取材陣も思わず唸ってしまいました。そして二上さんの良い意味で非常に職人さんっぽい一面を覗くことができたように思います。

二上さん「必要なものを、必要な人に、必要な量だけ作っていきたいというのが『FUTAGAMI』をはじめた当初からの考えです。大量生産ではなく、作家さんのような一点ものを作るのでもなくて。だから、スマッシュヒットを狙うような面白びっくり商品を作ることも決してありません。これからもただ、長く大事にできる良いものを作っていきたいと思っています」

 

_MG_2945

 

届けたいものがちゃんと使い手に伝わるために必要なもの

自分たちが作りたいものはどんなものなのか。どんなものを使い手に届けたいのか。二上さんにはそれがちゃんとはっきりと見えていることが、発する言葉の端々から感じ取れました。

また、まずはそれが「良いもの」であることを正しく伝えられる人材をこれから強化していきたいともお話しされていた二上さん。これからのものづくりの現場に必要なのは、必ずしも職人さんだけではないことに改めて気づかされます。

伝える力を強化した「FUTAGAMI」シリーズが、さらに今後どう進化していくのかがとても楽しみ。

市民権を獲得したオリジナルブランドをもつ工場さんを筆頭にして、日本の伝統産業やものづくりに関心を持つ人々に、新しい活躍のチャンスが与えられつつある時代がきているのかもしれません。


作者情報(一覧を見る)
shiori
山越 栞

フリーランスライター・編集者
「日本のかっこいいところを見つけて、もっと多くの人に伝えたい」そんな想いで執筆・編集などに携わる。10代から始めた茶道は現在も勉強中。