富山県、八尾(やつお)の街には雨上がりの凛とした空気が流れていました。

富山市内を抜けて、高台めがけて車でゆるやかに坂を上っていくこと数分、目の前にぴしっと整列した町屋が現れます。

平野を見下ろす緩やかな坂道の中、真っすぐ雄大に広がる八尾の街は、その佇まいから歴史を感じさせると同時に、街並みの潔さに清々しい気持にさせられます。

今回のセコリ百景は、ふと訪れたこの坂のまち八尾で出会った、独自のものづくりを行う職人さんのプチ取材です。

 

坂のまちで偶然出会った一軒の工房

 

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レンタカー屋さんでもらった地図を片手に車を走らせ、たどり着いた八尾の諏訪町。車を降りて街をブラブラと散策することにしました。
この辺りはお店もちらほらありますが、住居も多いみたいです。
町家の魅力に目を奪われていると、坂道の途中にふと、工芸品らしきものが置かれたお店が目につきました。

街は雨上がりでまだ午前中。人影もまばらです。

工房の閉まった硝子戸をまず右に開けようとすると、微動だにしませんでした。

「やっぱりまだ閉まってるね」

諦めようと、みなその場を立ち去りかけましたが、念のため左側の戸をスライドさせます。

ガラガラガラ………。
開きました。

出来ることはなんでもやってみるもんですね(笑)セコリ百景の物語が始まります。

 

_MG_2630のれんをわざわざ掛けて頂いて撮影しましたよ!

 

「日本の道100選」坂のまち八尾とは

 

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ここ八尾は、富山県の南に位置する人口2万人程度の街です。

江戸時代からの歴史を持つ八尾町は、飛騨山地と富山平野が接する高台で、交通の要所として栄えました。
その昔は生糸(きいと)や和紙を産業として、富山藩の御納戸(おなんど)と呼ばれるほど、産業による藩への経済的な貢献が大きかったそうです。
1813年頃は八尾の蚕種が全国の四分の一を占め、1861年頃には輸出量も日本の五分の一を占めていたほどだといいます。

今回残念ながら時間が合わず訪問を断念した、桂樹舎和紙文庫さんや、国の指定を受けた和紙屋さん、豆腐屋さんや、オーガニックの石鹸屋さんが現在でも軒を連ねます。

そんなものづくりの系譜以外でも、眺望を楽しめる城ヶ山公園や、祭りの「越中八尾おわら風の盆」などなど、観光でも見どころが沢山みたいです。八尾の看板通りでもある諏訪町本通りは、「日本の道100選」にも選ばれた、江戸時代の風景を色濃く残す、情緒あふれる300メートルほどの坂道です。

 

_MG_2636この階段を登り切ると、城ヶ山公園

 

伝統技術、指し物(さしもの)とは?

 

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この坂のまちで、ものづくりを続ける北山利一さん。一体なにを作ってるのでしょうか?
北山さんの工房の片隅にひっそり置いてある、作品の案内書。僕がああだこうだ言うよりも、そこに書かれた北山さんのことばが味わい深いものなので引用します。

「欅(けやき)と栃(とち)という木は個性が強く、いつまでも伸び縮みをくり返すわがまま者です。それをなだめながら、やさしく包み込む思いでの仕事に、さらにまろやかさを与えてくれるのが漆(うるし)でありましょう(中略)仕上げは生漆の溜で入念に塗りこんでありますので、長年美しい色艶を保ち続けることと思います」

北山さんが行うものづくりは、指し物(さしもの)と呼ばれ、桐のタンスや桐箱で、クギを使わないで固定できるものです。栃木県で出逢った鹿沼の組子もこの技術のいわば延長線上です。

 

_MG_2602これが指し物の技術。クギは不要!

 

指し物の作業で一番難しいのは、木の性質を理解しつつ、時間がたった際に反ったりしないようにすることだと思います。何年も寝かせた木でも湿度などで反ってしまって合わなくなるものがある。それをしないように形にするのが指し物です。100年寝かせたって、反る木はあるんですよ」

ひとつひとつの素材としっかりと向き合い、木の個性を見抜きます。
北山さんはその上に、漆を塗ったり、卵の殻を張り付けたり、象嵌をしたり、目を細めてしまうような繊細な技術を駆使して作品を創り上げていきます。

「今は日本全国でも、指し物の職人さんは減っているでしょうね。富山で指し物をやるのはここだけです。」と北山さんは話します。現在の北山さんの作品は、指し物の技術を応用した、茶器や蟻組小箱(ありぐみこばこ)といった、大きいものでも30cm程度のものです。

「木を削り、表面にたまごの殻を貼る技法なんかは、以前からありました。でもそれだと殻のイメージが強すぎるので、象嵌(ぞうがん)にするようにしたんです。これはお客さんとの会話から生まれた私のオリジナルです。お店を出したことによって、お客さんと話す機会が増えて、会話が作品作りに役立っていますね。」

小さな作品たちに、北山さんの長年培った技術と想いが濃い密度で注ぎ込まれています。

※象嵌・・・木などの素材に模様を切り抜き、そこに金や貝殻などの素材をはめ込んだもの

 

_MG_2610卵の殻を張り付けた北山さんの作品

 

_MG_2609漆の光沢の美しさが目を惹きます

 

北山さん「私が作品に使用している漆の話を少ししましょう。漆(うるし)というのは、カマのような道具である漆かきを使って、漆の木の皮を削り、出てきた汁をしぼったものです。言ってしまえば、木は自分の傷口を治すために固まらせる成分を持っているんですよ。木だって、固まらないと傷は治ったと言えないから、その土地の風土に合った固まりやすい漆を出すってことなんです。今ではこの漆も国産のものが作られなくなってきましてね、ほとんどが中国製。でもやっぱり国産のが一番品質がいい。漆は乾燥は遅いし、本当に手間暇がかかる塗料です。それでもやはり、塗料として漆は最高のものです

 

_MG_2589木を削りあわびの貝殻をはめ込んでいます。これが象嵌。あわびは鍋で半日ぐらい煮て柔らかくしてから、打ち抜きの技法で素材を得ています

 

受け継がれた指し物の伝統技術

北山さん「実は、教え子で女性が一人いるんです。指し物の技術を教える際は、ああしろこうしろとうるさくは言いませんでしたね。木の厚みなんかもまずは自分で考えてもらって、一回最後まで作らせていましたね。その後、ここがもっとこうしていれば良かったなんて教えることで、組み立て時の構成力から最後までをしっかり自分の頭で理解できると思い、指導していました」

この女性は寺田洋子さん。こちらの富山県のサイトで寺田さんの作品を見る事ができます!
新しい表現と女性らしさの視点で、見事に指し物が昇華されています。調べてみると、指し物系の女性職人さんは全国的にも複数の方がいらっしゃるみたいで、みなさんそれぞれ独自のものづくりをされている様です。

 

_MG_2592工房においてあるものは全て、北山さんの作品です

 

北山さん「その昔、この工房は婚礼とか建築とかで色々な注文がきたんですよ。嫁入り道具とか、家材とか。時代がだんだんと変わってきて、大きなものは注文が少なくなりました。そこで現在の様に硯箱や、棗(なつめ)、ブローチ、ネックレスなんかを作ることになったんです。そういえば、ギターなんかを作っていたこともありましたね。」

「実は家財の修理なんかで、今だに依頼が来るのですが、現在はお断りしています。そこまで大きいものはもう手に負えませんからね。残念ながら取材も基本的にはお断りしているんですよ。」

 

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北山さん「この店は、もう19年ぐらいやってます。始めたきっかけは、和紙の桂樹舎の先代の社長さんが勧めてくれたことです。『絶対店構えた方がいいよ』って。こうしてお店を開けてても、意外と靴を脱いで畳まで上がってくれる人は少ないんですよ。もしあがってくれても、値段だけ見て話を聞かないで帰ってしまう方もいるので寂しいですね。お話をしないと、どんな手間暇がかかっているのか伝えられないので。そういえば新幹線が通ってからは人の流れや客層が変わった気がしますね」

「あと、この八尾の街ではアートイベントも開催されているんですよ。このイベントの時には、何十年も前に指し物づくりの映像を作った地元の高校の放送部の子が訪ねてきてくれたりと、嬉しい再開がしばしばあったりします」

坂のまちアートinやつお

街の住民さんも参加するこのイベント、街がアート一色に染まる数日間が楽しめるみたいです。

今回は僕たちが偶然通りかかり、北山さんがいらっしゃったのでたくさんお話を聞かせてくれました。ありがとうございます。
北山利一さんは現在86歳。

現役で毎日コツコツ作品の制作にあたります。本当にものづくりが日課の、素敵な職人さんです。

 

_MG_2644紅葉もきれい!

 

日本に存在する美しい人と美しい街並み。

 

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今回はふいに訪れた美しい街のプチ取材で、貴重なものづくりのお話を聞くことができました。

これからもセコリ百景がまだ足を踏み入れたことがない土地で、ひたむきにものづくりに励む方が全国に沢山いるんだろうと思うと、ワクワクしてしまいます。

日頃ふと考えている、ものづくりと観光との接点や他の産業との接点において、八尾の街のポテンシャルをものすごく感じました。僕たちは足早に次の目的地へと向かってしまいましたが、街には酒造もありましたし、古道具店なんかもありましたよ。

ふと、この街に感じる“カッコよさ”ってなんだろう?と考えました。

八尾のカッコよさって、江戸時代よりその土地に過去生活してきた人と、北山さんの様にいま生活している人が長年大切にしてきた心意気なんじゃないだろうかと思います。

まだ訪れたことがない方はぜひこの機会に、タイムスリップを体験しに訪れて欲しい街のひとつです。

 

a_MG_2651八尾の高台から。富山の奥まで見通せます!


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大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。