季節はすっかり春になり、金沢でも桜が咲き始めた今日この頃。

雨と雪が多かった季節が過ぎて、気持ちの良い晴天の中で各所に取材で足を運ぶのが楽しみになっています。

前回の記事でも、金沢にハイテク技術と伝統工芸が共存していることを書きましたが、今回は江戸時代から金沢に根付くものづくりの一つをご紹介したいと思います。金沢を語る上では欠かすことのできない「加賀友禅」についてです。

加賀友禅は、約400年前に京都から加賀に伝わった染色技法が独自の風土の中で発展して確立された染色技法とその作品のことです。

 

①加賀友禅柄自動販売機

 

金沢の街の中では加賀友禅は身近な存在です。鮮やかな着物を着ている方を見かけるのはもちろん、自動販売機の柄になったり駅のホームで飾られるなど街の風景の一部となって、観光客を迎えてくれています。

 

②毎田染画工芸 外観

 

敷居の高さから、なかなか普段は目にすることができない加賀友禅ですが、形や姿を変え新たな変化を遂げてきています。21世紀美術館の近くの路地裏を入ると、昭和7年創業、三代続く加賀友禅「毎田染画工芸」があります。三代目、毎田仁嗣さんを訪ねました。

 

③三代目毎田仁嗣さん

 

「朝晩は職人さんと一緒にご飯を食べ、工房が遊び場でした。小さいころはよく祖父や父に連れられ、展覧会や発表会に出かけることが多く、そこには沢山の人が集まり、祖父や父の作品が飾られている中でみんなが楽しそうにしているので、子供ながらもこれは面白い仕事なのだという認識でした。工房を受け継ぐことに気負いはなく、他の道に進もうという思いはありませんでした。そこは両親の教育や刷り込みが上手だったのかも知れませんね。」と笑いながら加賀友禅の世界に入ったエピソードを話してくれた仁嗣さん。

大学時代には工学部で建築について学ばれていた仁嗣さん。そのころから旅館や市役所などの壁画に加賀友禅が用いられているのを見て、着物とは違った形で世の中に出るようになり、今までにはなかった新たな提案ができるのではないかという可能性を感じていたそうです。大学卒業後、二代目の健治さんに弟子入りをします。

 

④作業風景

 

一般的に友禅の作品は分業で作られます。問屋が生地を仕入れ、下絵を描き、色塗りをする作家。その柄に糊を乗せていく糊置き屋、地染め、水洗いをする染め屋と様々な行程が各々の別な工房で進行していきます。

 

⑤工房内風景

 

毎田染画工芸ではそういった行程を工房内で一貫して行っている国内でも数少ない工房です。作家は全ての行程を工房内で見ることができるので、より作家の意図や想いが作品に反映され、枠にとらわれない新たな制作に取り組むことができます。職人の技術が集結した環境と仕組みが整えられている毎田染画工芸の工房では、壁画の他にも音楽堂の緞帳などのスケールの大きな作品の制作を行うことができるのです。緞帳の制作は、仁嗣さんが弟子入り後に初めて健治さんと共同制作をされたものです。

「この制作に携われたことが今でも大きな糧となっています」と仁嗣さんは語ります。

 

⑥毎田さんの作品

 

加賀友禅は他の友禅と比べると、落ち着きのある写実的な草花模様を中心とした絵画調の柄を特徴としています。草木の芽生えから落葉までの季節の移ろいなど四季や自然、時の流れを一つの作品の中に表現しているのです。もう一つ特徴として、箔や刺繍といった華やかな技法を用いらないことです。さらには「虫喰い」といった技法では植物が虫に食べられている様子を柄の中に取り入れるのです。朽ちゆくものにさえ美しさを見いだしているのです。加賀友禅では飾ることない自然のありのままの様子が描きだされるのです。

近年、仁嗣さんは特に自然の風景であっても川の流れや池に広がる波紋など、水面が見せる表情を作品の中に取り込んでいます。独自の視点から新たな加賀友禅の制作に取り組んでいるのです。私たちの生活の中に「美」を見い出し、作家さんは加賀友禅の作品に落とし込むのです。

 

⑦訪問着

 

金沢には古くから加賀友禅が発展していくための基盤があったからこそ、伝統に革新が重なり、技術が受け継がれてきたのだと思います。そして金沢には今もなお、200人ほどの友禅の作家さんが活動しています。

「祖父や父の背中を見て育ち、加賀友禅の本質に触れてきているからこそ、もっと沢山の人に楽しんでもらえるようにこれからも新たなことに挑戦していきたいと思いますし、そしてそれができるのが私の強みだと思っています。」と語る仁嗣さんからは工房の三代目として、更には一作家として確固たる信念を感じ取ることができました。

「古くからの技術や技法の形を変えずに受け継いでいくことが伝承であり、次の時代に継承していくために時代感をとらえ、新しいことに挑み続けること、その積み重ねが伝統になっていくと思うのです。」

伝承と伝統の違いについて、加賀友禅の新しいビジョンについても説明していただきました。

今後、毎田染画工芸の商品のご紹介もしていければと思います。

 

(下山和希)


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下山
下山 和希

東京の某アパレル会社でデザイナーを経て、2015年9月に金沢に移住。
北陸産地の工場や工房の訪問取材をしながら、金沢セコリ荘のディレクターを務める。金沢文化服装学院で教鞭も執る。