新潟県の燕三条駅を中心とした68もの工場が、4日間に渡って一般向けに開放するオープンファクトリーイベント、工場の祭典2015に行ってきました。

実際の工場(こうば)を見学して、職人さんから製品づくりに関して直接伺ったり、ワークショップとして製品作りの一部を体験できたりと、ちょっと興味のある人から、ものづくりに詳しいプロまで、幅広い方が楽しめるこのイベント。年に1度の開催で、今年で3回目というまだ始まったばかりの、地域から派生する大きな取り組みです。

 

_MG_9896

 

親子2代で経営している工場や、カフェやショップまで併設している大きなファクトリーなど、参加している工場の規模は様々。
日常生活に欠かせない家庭用品から、普段なかなか目にすることのないプロ用のお仕事道具など、作っている製品も多岐に渡ります。
金属加工で有名な燕三条ですが、一言で金属加工と言っても、実は、場所によってルーツが違うのだとか。

鍛冶場が多く集まる三条エリア、はたまた洋食器で高いシェアを誇る燕エリアなど、発展してきた歴史がそれぞれの地域にあり、作っている製品や地域に集まる工場も異なります。

 

_MG_9929直線的で整備された街並み

 

工場の祭典では、燕と三条の2つの大きなエリアと他6つの小さなエリアに分けて、紹介されています。
東京を拠点としているセコリ百景取材チームは、夜中に車を走らせ、関越自動車道を通って、約5時間。
初めて車で向かった私たちにとっては思っていた以上に近く、到着してからは、信濃川をバックにきれいな朝焼けを眺めるという、癒される光景にも出会いました。

10月に入って雨風が続いていた東京ですが、秋晴れにも恵まれた10/3と10/4の2日間で私たちが出会った、燕三条の工場をご紹介します。

 

まずは、工場の祭典ガイドブックをゲット

 

DSC01253エリアはこう見えてかなり広い!端から端までは車でも30分以上かかる

 

最初に、メイン会場となっている鍛冶場道場にたどり着いた私たちは、ガイドブックを手に入れました。

こちらでは、レンタサイクルの貸し出しを行っていて、エリア内に一つあるレンタサイクルの拠点を自転車移動も出来るという。
燕三条の町並みと風を楽しみながら参加するのも、また地域のイベントの醍醐味です。
各工場毎に開催している内容とタイムスケジュールをチェックして、いざ出発。
ワークショップは、抽選や予約が必要なところもあるので、まずは、随時見学ができる工場を選んで向かいました。

 

_MG_9931

 

慣れない土地に勘を失いながらも、ところどころに施されたピンクのストライプ柄を頼りに目的地を目指します。
見学を受け入れているところは、工場の祭典のメインアートになっているピンクのストライプ柄の白い箱が必ず積み重なっていて、生活の空間や仕事場に置いてある姿は、なかなかの迫力です。

 

3代に渡るものづくりの軌跡 義平刃物

 

_MG_9933

 

1つめに伺った、義平刃物さん。
自動車のパーツ屋さんを横目に住宅地の奥まで進み、風情のある用水路を渡って、工場の中へ。

小屋のような木造の建物の中に、原料を温めるための炉や、
叩く機械、研ぐ機械、裁断の機械などが、所狭しと置いてあります。
工場内を移動できる通路は、人が1人通れるくらいの広さがやっと、というところ。

「カンカンカン」と工場に響き渡る音の迫力に圧倒されている私たちを見るや、刃物を叩き打っていた職人の方が手を止めて、色々な話をしてくれました。

 

_MG_9963

 

鋼を鉄で挟んで3層にしたものを700℃まで熱して、熱いうちにハンマーで何度も叩いて、丈夫な包丁を作っていく。
これを、鍛冶の世界では、”鍛える”と表現します。
鉄を鍛え打つ鍛造の音は、なんともリズミカルです。

鉄が変化してしまうため、鉄を熱する温度が100°C違うだけでも丈夫な刃物はできず、温度は、目で見て、感じ、調節をするそう。
熱して、鍛えて・・・という繰り返しの作業をスムーズにこなしているようすからは素人の私たちには、色による温度の違いは全くわからず、さっそく、長年の経験によるワザに驚きを隠せずにはいられませんでした。

 

_MG_9958

 

時代の移り変わりと共に、変化していく技術と製品

長年の刃物作りを経て、工業用から家庭用向けの包丁作りへシフトしていった経緯があり、変化していく過程で、「研がなくてもよく、錆びない包丁作り」を極めたという。
完成した包丁からは、品質の良さと職人の方の美意識が、しっかりと感じ取れて、決して安くはないが、いつか手に入れて日常生活で使ってみたいという気持ちが自然と湧いてきます。

 

_MG_9951

 

今までの経緯を語ってくださった、義平刃物の3代目の職人さん。
その方が、続けて語ってくださった例え話がとても印象的です。

一番価格の低いもので、100円の包丁を80本使い捨てする間に、義平刃物の丈夫な1本を使い続けられるという。
この具体的な比較をうけて、どちらが日々の生活を満たしてくれるだろう・・・と、そんな疑問がふと浮かびます。これからの自分の理想の生活や現代の社会環境、生産者の思いなど、その他諸々に思いを巡らすと、私なら後者を選びますが、今この記事を読んでいる皆さんは、どちらを選びますか?いつか意見を聞いてみたいです。
ちなみに、職人さんが着けているロング丈のエプロン。

 

_MG_9976

 

鍛造の際は、デニム地のエプロンを着る一方、刃の先端を研ぐときには飛んだ水を全身に浴びてしまうため、ビニール地の漁業用エプロンを身に着けます。
工程ごとに着る制服が違う、刃物屋さん特有の働く姿を初めて知ったように、現地に行って初めて気付くことがあるのが、工場見学の面白いところだなあと実感します。
近年は、鍛冶職人になりたいという若い方もいるという反面、食べていけるかわからないからと、そのことを「うれし、かなし」と表現する職人さんの表情は、なんとも複雑です。
ですが、「包丁を研ぐ文化がないヨーロッパで需要が増えていて少なからず取引があるんですよ」と説明しながら笑みがこぼれる様子は、聞いている私たちも嬉しい気持ちになります。日本のものづくりの魅力はこの町工場でも海外へと繋がっていました。

 

_MG_9979

 

街で出会った人の声と、垣間見える燕三条の人々のオープンマインド

義平刃物さんを後にして歩いていると、地元の方に出会い、周辺エリアのことや地元を代表する企業のこと、そして工場の祭典に訪れた私たちに期待していることなどを伺いながら、しばしの世間話を。

 

_MG_9987せっかく色々親切に教えて下さったのに、掲載許可を頂くの忘れてしまいました・・・。街の方です

 

「街にこうやって外から人が来てくれることはいことだよね。昔はこの辺りは結構活気があったよ。この燕三条周辺は特徴として、大規模の工場がほとんどなくて、家族経営していたり、小規模の工場が多い。これからはその町工場の魅力を伝えていって、住んでる人がわざわざこの地域を訪れてくれた人たちを、もてなす意識をもたないとね。」
この工場の祭典、徐々に地元の方にも浸透している様子。

いわばよそ者のわたしたちを迎え入れる懐の深さがあってこそ、この工場の祭典が成り立っているのではないのだろうか・・・と思わずにはいられない経験でした。

この方に、親切に近くにあるという相田合同工場さん紹介頂き、向かうことにしたセコリ百景チーム。
ようやく目的地を探すのも慣れてきて、遠くに見えるピンクのストライプ柄を頼りに歩き始めました。

 

影で農業を支える鍛冶工房 相田合同工場

 

_MG_9990

 

角を曲がって、趣のある木造でこしらえられた相田合同工場さんへ。

はじめに案内されたショールームに入ると、壁一面に見たことのない道具たちが並んでいます。
ひとつひとつを眺めても何をするための道具なのか全くわからず、気になったものに指をさして尋ねて、ていねいに説明を頂きました。

 

_MG_9994

 

壁一面の道具は、全て相田合同工場さんが作ったもので、80年以上に渡り、様々な鍬(くわ)や鎌、菜園用ハサミなどプロ用から家庭用まで幅広い農具を製作し続けています。
こちらの商品は、農具としては珍しく、取扱説明書付きのものもあります。
工場の方で全て考え、作成したイラスト付きの取扱説明書をつけることで、売れ行きがよくなったそうで、それを説明をする社長さんの言葉尻は力強く、自信に溢れた表情が印象的です。

手作りの伝統を守りながらも新しいことを取り入れ、革新していく。
実際に、結果に結びついて、デザイン農具と称した商品がグッドデザイン賞を受賞したり、取扱説明書付きの製品を作ったことで、製品安全対策優良企業の表彰をうけたりと、各方面での評価もうけています。

 

多品種の農具をフルオーダーメイドで。

 

_MG_9996社長さん自ら案内して下さいました

 

次に案内をして頂き、床に土が引きつめられた半屋外のような木造の工場に足を踏み入れます。土間のおかげか、少し懐かしく、ひんやりとした雰囲気を感じるこちらの工場では、普段使っている道具を預かって、同じものを製作するというフルオーダーで製造をしており、その工程はほとんどが手作業によるものです。
壁際に積まれた箱の中には、今まで作った道具の加工前の材料が保管されていて、その裏面には、製造に必要な数値がチョークで書いてあるものも。
まるで材料自体が製品の仕様書のように扱われており、また同じものを作って欲しいと頼まれた時のための、大切なかたちある過去のデータです。職人さんにあった仕事のやり方が、ここに表れているようです。

「本来は、デジタルデータもしっかり残したいのですが、職人さんにとってはどうしてもこの型に直接書き込む方が早いんですよね。」と社長さん。

 

_MG_0020

 

同じ鍬(くわ)として使う道具でも、地域によって形状の差があります。社長さんは「これはどこどこ地方の、あれはあの地域の」と頭の中に整理されて鍬が並んでいるようです。きっと地域の歴史や土壌などが関係してくるのでしょう。さらに、個人が使い慣れた形もあり、一つの鍬(くわ)をとっても形状は千差万別
そのため金型は存在せず、預かった道具を見てどれくらいの量の原材料が必要かの判断が、熟練した職人さんだけ持つ目なのだそう。

 

_MG_0003

 

製造前の材料は、金属板を組み合わせたような形でできていて、写真の櫛形のものは、約5mmほどの厚さのもの。

大きな機械で鍛えて、伸びた部分を成形した後、仕上げをするというのが、鍬(くわ)の製造方法。

 

_MG_0008手前が鍛造する前の状態。二種類の金属が使用されている事が良く分かる

 

母材は鉄で、刃の部分は鋼(はがね)です。

均一の厚みで、四角い板に取っ手がついたような金属板が、刃の先端からきれいなカーブを描くような形に変化します。製造を経て生まれた厚みが、丈夫さを表しているように思います。

 

IMG_2642

 

工場の中で、要とも言えるのは、鍛造をする機械。何トンもの圧力をかけることが出来ます。
下の写真のように目線と作業の高さを合わせるため、床に掘ってある穴へ人が入ります。相当な重量のある鍛造機を持ち上げるよりも、穴を掘った方が簡単だからこの穴に人が入る方法生まれたそうです。機械を操作し、スプリングハンマーを上下させて鍛造し、製品を作っていきます。

 

_MG_0012土間の工場にはそんな理由があったんですね!

 

鍛造した製品は、地面に直接置いて冷やしていきます。
工場内が土間なのは、高熱の鉄を置くと、コンクリートでも変形してしまうため。
熱の赤みが消えた状態でも約200度には達している製品が、何個も床に並ぶというから、夏場の室内の暑さを想像しただけで、くらくらとしてくる・・・。

 

流れ作業が存在しないものづくり

 

_MG_0019

 

次に、仕上げを行なうグラインダーのある部屋へ。
※グラインダー・・・砥石を回転させ,工作物の表面を研磨したり,削ったりする機械のこと

ここは刃の先を磨くなどの、最後の工程を行なう場所で、それぞれ職人が受け持っている未完成の道具が機械のそばにおいてあります。

オーダーメイドのため、職人が受け持っている商品の形はそれぞれ。
流れ作業が存在せず、基本的には一人の職人の方がほとんどの工程をこなせるという。

農具の修理も行なっていて、刃が折れてぼろぼろになってしまった道具も、まるで新品のものように直してしまう
手作りで製造しているからこそ、できる技術であり、かつ、一つの道具を長く使ってもらおうというスピリットを体現しているかのように思います。

 

_MG_0025普段塗装はしないが、この日は急きょお父さんが塗装をする事になったようです

 

相田合同工場さんでは、大量生産の商品におされ、販路が狭まってきているのは確かだか、本当に自分に使いやすいものを求める人は、インターネットを活用して注文をしてくることもあるそう。
先ほど、迎え入れてくれた女性が、「こういうところがあるっていうのも、覚えておいてね~」と、
微笑む姿に自然と笑顔になりながら、相田合同工場さんを後にしました。

工場の祭典は、一般の方への開放イベントだが、同業の方が製造に関する相談に来ることもあるというから、想定以上の結果も生んでいる。
見学者として、セコリ百景としてできることは?そして次に生かすには?
また、考えるためのきっかけを頂いたような気がします。

工場の見学を通して、地元の方の人柄に触れる旅。
燕三条に着いて数時間の出来事でさえ、色んな発見や感動があって、これから出会う製品や人に、わくわくせずにはいられない経験となりました。

 

工場の祭典 2015

_MG_9892道中のこれぞ新潟県!の風景


作者情報(一覧を見る)
美帆沼尻
沼尻 美帆

2016年、富山県・射水に移住。ローカル発信のウェブメディアを運営しながら、とある小さな港町で、まちのにぎわい作りと移住支援を中心に活動中。

https://imizuportal.wordpress.com/