日本の各地には、それぞれの地域のものづくりや伝統工芸を盛り上げようと、さまざまな取り組みで試行錯誤をする団体が多く存在します。

その中で、商品開発のノウハウや、メンバー間でのコミュニケーション方法を知りたいと他の地域からも注目されている団体のひとつが、「とちぎの技委員会」です。この団体で、「U(ユー)」というブランドを運営しています。

全員が高いモチベーションで参加するチームとしての魅力や、職人さん自らデザインのアイデアを発信する体制など…注目される組織の秘訣を伺いながら、ものづくりに対する熱量を終始感じることができました!

以前セコリ百景では、この組織のメンバーである福田製紙所さんと豊田木工さんを取材。このお二人も、とちぎの技委員会では「U」 のブランディング活動で伝統的なものづくりとデザインを融合させたプロダクトを作り、都内での展示会なども行っています。それぞれの事業体の代表でもある福田さんも豊田さんも、「U」 の話になると、言葉に自然と力がこもります。

目次

 

_MG_9768豊田木工所さんの鹿沼組子

 

自分たちの活動を嬉しそうに話す人が魅力的に映るのはなぜでしょう?きっと、そこにメンバー内の密な結びつきや明るい将来性を感じるからだと思うんです。全く違う分野の職人さんたちが、手を取り合ってものづくりの未来を変えようとしていることに感銘を受け、「もっと詳しく仕組みを知りたい!」との思いから今回のインタビューにつながりました。お話を伺ったのは、とちぎの技委員会のスーパーバイザーとしてメンバーをつなげ、プロジェクトを進める際の中核を担っている関教寿(せき のりひさ)さん。栃木県益子(ましこ)町で最大の窯元、「つかもと」さんに勤務しており、もともとはご自身も陶芸の職人さんだったそうです。

※窯元・・・陶磁器の製作から販売もおこなっているところ。

 

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関さん「つかもとでは、もともと職人として17年間働いていました。とちぎの技委員会での活動が本格的になり、広報の仕事を経て、今は営業部に所属しています。とちぎの技委員会は、分野は違えど全員がものづくりのエキスパートです。いわゆる職人気質なので、話が進まないのでは?とイメージされるかもしれませんが、全く逆なんですよ

そこには、チームとしての職人さんたちの望ましい関係性があるようです。関さんの熱い想いとともに、新しい地域組織のしくみについてお伺いしました!

 

行政の事業から民間団体へと変わったプロジェクト

とちぎの技委員会は、栃木県の「活かそう!とちぎの技事業」というプロジェクトから生まれたグループです。初期の概要は、伝統工芸とデザインを掛け合わせて、現代人にあった形のプロダクトを考えるための、いわゆる勉強会のようなものでした。そこで招かれた3名のプロフェッショナルが、プロダクトデザイナーの安次富隆(あしとみたかし)さん、食環境プロデューサーの木村ふみさん、空間プロデューサーの瀧勝巳(たきかつみ)さん。3名とも、日本の伝統産業やものづくりに貢献してきた実績ある方々です。

プロジェクトの構成は、安次富さんが木村さんと瀧さんのモノに対する考え方を作り手の方々に還元し、より良いものづくりをするためにはどうすれば良いかを具体的にアドバイスするという仕組みでした。

関さん「このプロジェクトを通して、職人それぞれがデザイナーであるべきという、今まで想像したことのなかった考えを学ぶことができました。普通はプロダクトデザイナーがデザインの提案をして、手を動かす職人がそれを形にしますよね?でも、安次富さんはそのモノを一番よく知っている職人こそが、本当は自らデザインを考えるほうが理にかなっていると私たちに話してくれたんです」

 

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そんな勉強会が県庁の一室で繰り広げられる中、「このままで終わりじゃもったいないよね」と誰からでもなく声が上がります。これが、元は行政の期限付きプロジェクトの一環で集まったにすぎなかった職人さんたちが「とちぎの技委員会」として民間団体を立ち上げる第一歩でした。

関さん「それぞれ専門領域は違えど、ものづくりに情熱をかけていることに変わりありません。そもそも、一緒に講義を受けていたメンバーは、職人のなかでも栃木の工芸をなんとか盛り上げたいという想いで参加した人たち。自然と『なにかしよう』という流れになったんです」

 

_MG_9778つかもとさんの益子焼

 

自然と話がまとまっていく職人同士の阿吽の呼吸

このようにして発足された組織だからこそ、とちぎの技委員会の会議はとてもアクティブです。各々のメンバーが発言して提案し、次々とアイデアが飛び交います。

例えばあるとき、「真岡(もうか)木綿という栃木の木綿を使ってなにか作ろう」という話題があがりました。どうせやるなら細部までこだわったものにしようと話し合いが進み、商品につけるボタンを誰が作るかを決めようとすると、メンバーの多くから手が挙がりました。

「ウチなら木で作れるよ」「僕のところは焼き物で」といった風に、それぞれから自分の専門の強みを生かしたアイデアが次々と出てきました。

 

_MG_9761真岡木綿会館さんのポーチ

 

関さん「自分で言うのもなんですが…(笑)うちのメンバーはそれぞれのモチベーションと、技術のアベレージがかなり高いんです。だから、話し合いをするうちに“いつのまにか”職人同士のコラボレーションが成立している。話し合いの結果がちゃんと商品としてスムーズにできあがっていくんです

その活発なやり取りに、県のプロジェクトだった頃は「先生」としてメンバーに関わってきたデザイナーの安次富さんも魅力を感じ、今では「仲間」として協力関係が続いているそうです。

関さん「『U』のロゴは、実は安次富さんが作ってくれたものなんです。『みんなの気持ちを一つにし、私たちの目標を自覚して知らせるためにデザインしました!』って」

デザイナーさんとの深い絆を感じますよね。改めて、とちぎの技委員会の熱量を感じるエピソードです。

 

_MG_9775武者絵の里大畑さんの手提げ

 

個々の本業をも引き上げる「職人兼デザイナーの形」

安次富さんのお話が出たところで、とちぎの技委員会でのデザイナーと職人の関係性を詳しく伺ってみました。

関さん「基本的にいつも『職人発信』です。先ほどの真岡木綿の話のように、職人たちの話し合いで固まったアイデアを、安次富さんに『こんなのどうですか?』と聞いてみるんです。そこで『これだと要素が多いから一つに絞ったほうがいい』とか『ここの色とサイズをこう変えるともっとかっこいい』といったアドバイスをもらい、最終的な形になっていきます」

要するに、デザイナーはあくまでもとちぎの技委員会ではアドバイザー的な位置付けであり、根本的なデザイン案などは職人さんたち自身から生まれているんです。そして、こういった組織形態は職人さんたち個々の本業にも大きな影響をもたらしました。

関さん「メンバーの中には、安次富さんのアドバイスを受けて、自社商品のパッケージデザインまで自分でできるようになった人もいます。もともとセンスが良くて、そこへ安次富さんの微調整が入っただけなのですが、こうして委員会の中だけでなくそれぞれの本業である会社にもプラスに働いているのが、僕らの組織の強いところなんです

 

_MG_9759栃木の線香、一心堂さんの製品

 

この本業への相乗効果が、他の地域団体からもアドバイスのオファーが来るゆえんかもしれません。安次富さんが講義で伝えていた「職人自らがデザイナーであるべき」という考えが、メンバーにしっかりと根付いているから実現できることですよね。
関さんはこんなこともおっしゃっていました。

関さん「こういったデザイナーさんとの関係性がプラスに働いた大きな例が、実は僕自身だったりします。手を動かすということだけをしてきた職人が、”スーパーバイザー”として新たな可能性を広げることができたのですから

 

伝統工芸プロジェクトのスーパーバイザーとしての仕事とは?

元々、高校時代に美術系のコースを専攻していた関さん。卒業後すぐにつかもとに入社したそうですが、「とちぎの技委員会」でも、他の職人さんに比べてデザインの知識があったことから、自然とメンバーと安次富さんの橋渡し的な存在になっていきました。

なんと、「U」の商品の撮影や、展示会のディスプレイデザインまでも、関さんが担当しているんです。

関さん「他のメンバーには、百の姓(せい)を持つ、という意味で百姓(ひゃくしょう)だなんて言われていますよ(笑)自分は人からいただいたアドバイスを吸収して、形として吐き出すのが多分得意なんだと思います。安次富さんのセンスを自分なりに察知して、それを還元しているだけなんです」

関さんは謙虚に話しますが、全国それぞれの地域団体にもこのような「デザイナーのセンスを汲めて繋げることができる人」がいたら、どんなに心強いことでしょうか。関さんの存在こそ、「とちぎの技委員会」の強さの一因だと感じました。

関さん「『U』は、頑張って撒いてきた種がやっと芽を出し始めた段階です。日本には他にもっと知名度のあるものづくりの産地がたくさんあるので、今後も挑戦を続けなくてはなりません。でも、同じように地域を盛り上げようと努力している県外の人々には、どんどん僕たちの仕組みを参考にしていってほしいとも思っています

 

_MG_9762福田製作所さんの烏山手すき和紙

 

想いの「ゴール」は同じだから

他の地域のものづくりの組織団体は、言ってしまえばライバルのような関係としても捉えられるはずです。にもかかわらず、「とちぎの技委員会」がそんな外部の組織にもノウハウを提供するのには、理由があります。

 

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関さん「やっぱり、みんなを幸せにしたいんですよ。僕のゴールはそこだから、手段はその都度変わったっていい。例えば、僕が初めに職人になったのも、自分の作った陶器を使って誰かが笑顔になるのが単純に嬉しかったからです。それが今はスーパーバイザーとして栃木のものづくりに貢献することが手段になっただけ。だから他の地域も同じようにして活性化していったら、日本中に幸せが広がるってことですよね。それって素敵なことでしょう?

懐の深さというか、視野の広さというか。
地域だけではなく、ものづくり全体のことを見据えていらっしゃるんですね。

関さん「『U』の”U”のモチーフには、3つの意味があるんです」

 

u_logo

 

1、作り手が使い手のことを考える「you」
2、作り手と使い手、職人と職人、職人とデザイナーを結ぶ「結う」
3、数学記号で、集合体を意味する「U」

まさにとちぎの技委員会にぴったりの名前ですよね。
納得すると同時に、込められた想いの熱さについうるっとしてしまいました…。

関さんのお話はエネルギーに満ち溢れていて、今後どんな活動をしていくのか、お話を伺いながら終始わくわくしっぱなしのセコリ百景メンバー。

「職人兼デザイナー」という新しい考え方は、日本の伝統工芸の今後を支えるひとつのあり方として、ものづくりの未来に明るい光をもたらしてくれそうです。とちぎの技委員会のチームとしての姿勢には、職人さんでなくとも見習うべき部分がたくさんありますよね。

私たちも負けてられないな、なんて意気込みつつ、仲間がいることの大切さを再確認させてもらった取材でした。


作者情報(一覧を見る)
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山越 栞

フリーランスライター・編集者
「日本のかっこいいところを見つけて、もっと多くの人に伝えたい」そんな想いで執筆・編集などに携わる。10代から始めた茶道は現在も勉強中。