未来へと繋がる左官(さかん)の技術。

石川県の金沢で左官の技術と珪藻土(けいそうど)の特徴を生活雑貨へと落とし込んだ、東京でも話題のブランド「soil」

この土から産まれた魔法のプロダクトである「soil」を生活に取り入れてしまうと、もう他のものに浮気できなくなりそうです。

例えば、soilのコースター。
soilのコースターには、いくら水滴がしたたり落ちても水分は一滴も残りません。

例えば、soilのバスマット。
soilのバスマットを使用すれば、風呂上りに洗面所がびしょびしょになる煩わしさも無くなります。

左官の技術と、素材の吸水性を特徴とした魔法の様な未来のプロダクト「soil」のものづくりの現場を徹底解剖します!

もくじ

 

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金沢に息づく伝統的技術の左官

左官(さかん)とは、コテを利用して、土やセメントを壁や床に塗りあげる技術のこと

江戸時代より富山で左官業を営み、1917年(大正6年)に四代目の石動半七(いするぎはんしち)により金沢で創立された、soilの元である株式会社イスルギさん(以下、イスルギ)。昭和に入ってからは、東京オリピックや大阪万博など国家的な大プロジェクトに参加し、国から「優秀技能賞」の表彰を受ける職人を数多く輩出してきました。

今回お話を聞かせて頂いた、イスルギ五代目の石動社長の祖父は、名人と言われるほどの職人で、祖父が育てたお抱え職人さんはみな腕がよく、北陸以外の遠方の現場もこなしながら、左官工として名を馳せたそうです。

 

_MG_0789敷地内の一角。歴史を感じます

 

そもそもなぜ、左官がこの金沢の地で盛んなのか。その理由は、北陸は春にフェーン現象が起こり強い風が吹くため火事が多く、多くの人が家財を守るために土蔵を建てたことに起因します
土蔵は大工仕事よりも、左官仕事の分量が大きいため、左官の技術が栄えたんです。

 

_MG_0794こちらは川砂。左官業ならではの光景

 

左官業で本当にクライアントの為になる仕事って?

五代目の石動博一さんは、左官業を営みつつも、自分たちの仕事に疑問を感じることがしばしばあった様です。

「建物を建てる時、ゼネコンが施主から注文を受けて建物を建てますよね。つまり、ゼネコンが左官屋や塗装屋などの専門工事業者を抱えている形です。建物を建てると考えると、普通、お客様と言えば施主を指すのですが、私たちの様な専門工事業者から見ると、お客様はゼネコンなんです。」と石動さん。

「私たちからすると、コストが掛かっても、こんな技法にすれば良いとか、材料の質を上げたほうが良いなど、もっとこうすればエンドユーザー(施主)が嬉しいはず、なんて提案をもっとしたいんです。でもそれがなかなか実現しません。本来お客様のための事が、どうしてもなかなかできてないのが現状なんですよ。」

 

_MG_0772左官アート

 

「ですので、私は直接お客様にPRする方法がないかを考えていました。そんな時に博物館で見たのが、江戸時代の左官屋さんが使っていた※岡持ちのような壁の見本。私もそれにならい、壁の見本を持ち歩き、お客さんに対して『こういう壁はどうですか?』と見せていたんです。」

※ラーメン屋の出前に使われていた、食べ物や食器を入れて運ぶ道具。

普通の左官屋さんは、こんな営業方法はとりません。

今の時代に、何か新しいカタチで左官の打ち出しはできないか?と石動さんは考えた結果、2000年に左官のアート(左官のカタログ)の公開をスタートさせます。

 

_MG_0780これが左官による作品。技術力の高さを垣間見ることができる

 

海外などの展示会にも積極的に出店していきます。

これらの石動さんの左官業としては異色の活動が、石川県のデザインセンターの目にとまり、デザインセンターで石川県内のデザイナーと合わせ、ものづくりプロジェクトを実施することになります。

「プロジェクトでは、デザイナーと企業をマッチングさせる行司の役割が必要です。それがアッシュコンセプトの代表である名児耶さん。彼は、左官が土を仕上げる際の面白さをみて『僕は昔から左官が好きだった。とてもおもしろい』と興味を抱き、プロジェクトが一気に話が進んでいきました。」

試行錯誤を経て、2009年6月のインテリアライフスタイル展で初めて、soilは珪藻土の総合ブランドとして発表されます。

 

_MG_0739soilの世界観が見事に伝わるパッケージ。これもアッシュコンセプトさんの力

 

「もう、そりゃ全く違う種類の商売でしたよ。」業態変換で生まれたsoil

もともとの左官業から徐々にお客さんに近づいて行った石動さんのご商売。左官アートから始まり、ついには小売りにまで到達します。小売りを考え始めたのにも理由がありました。

リーマンショックで建設の需要がガクっと減りました。左官も受注産業なので、ものが建たなくなると突然仕事がなくなり、それはもう大変でした。」

普通の左官業の会社が半分は外注の職人さんで成り立っている所を、イスルギでは左官工を育てる訓練学校まで会社の敷地内に構えている為、全てがお抱えの大切な職人さんです。この直接雇用では、仕事がなくても日当を払う必要がありました。

石動さんは想定外の事態に直面し、なんとか受注産業から脱却して物を作って売ってお金が稼ぐ事ができないかとの思いを強めていきます。石動社長のこの思いが会社の新しい航路開拓の原動力になります。

 

_MG_0877ハッキリ言ってsoilの商品は安い。先まで読み進めばその意味が分かります!

 

石動さんは、小売りは180度今までとは違う商売で「もう違いすぎて何がなんだか分からない」と笑いながらお話していました。

会社の新規事業であるsoil。
実は、スタート時にいっさい設備投資をしていないそうです!

というのも、材料はもともと左官でも必要な珪藻土、技術や技法は従来の左官職人さんが有するもの。

今現状である資源の中から、こんな素晴らしい対顧客のプロダクトが作れたのですから驚きです。

身の回りのものを、別の角度からふと見る視点って大事です。

 

soilのひとつひとつがキメの細かい手仕事です

soilは見た目はキリッとしているので工業製品の佇まい。
しかし実はこれ、完全に工芸品に近いものなんです。

「OEMの話も来ます。例えば、ビール会社からマーク入りのコースターが欲しいとお問い合わせ頂くことがあります。でもそんな話が来ても、発注数が多すぎるとお受けすることができないんです。soilは手づくりなんですよ……。」と石動さん。

驚きました。

この土から生まれたシンプルで美しいプロダクトが手づくり……。

 

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「発注単位に万がついたら、もう対応できないです。計算上2〜3年かかってしまいます笑。バスマットは一人で18〜20枚作るのが、1日の最大個数なんですよ。」

せっかくのOEMの話しを頂き、何千という単位で注文が来ても対応できないのが石動さんの悩み。
数百個は出来ないというと驚かれてしまいますが、取引先の方も実際に来て、現場を見ると「これでは確かにむりだよね」と納得してくれるそうです。

 

手作りのsoilの生産体制はどうなっているのか?

 

_MG_0801これがsoilの原料となる珪藻土(けいそうど)

 

白やピンクは元々の珪藻土の色。
ピンク色の土は石川県の七尾と珠洲(すず)でも産出します。
soilの珪藻土の仕入先は石川や秋田など。珪藻土はプランクトンの化石層で、焼成(しょうせい)前の珪藻土は水分の多い粘土のようなものです。

soilでは、この土に左官の技術と技法を駆使してプロダクトを生み出しています。
スタート時は左官職人さん達がsoilのプロダクトを作っていましたが、左官の仕事が忙しくなってしまい、パートさんを4人雇うことに。

石動さんのこの判断が功を制します。

同じ製法で毎日、同じものを作るので、熟練まで時間がかからない上に、やる気のある方が多く集まりました。
パートさん達を時給制にしてしまうと、どうしてもひとりひとりの調子によって、1日の生産量にばらつきが見えてきて個数が安定せず、原価計算が出来ません。
そこで、soilでは内職制を採用。
1個いくらで、出来たものを会社が買い取るという形式の『通い内職制度』が出来上がりました。

これにより原価計算が可能になり、個人による不公平さもなくなり、パートの皆さんの創意工夫も刺激します。
まさに一石三鳥の制度であったようです。

伝統の左官業を営んで来た会社に大変動を巻き起こした、soilの生産現場にいよいよ入っていきます!

 

いよいよ潜入!soilの工房へ。

soilでは、実にたくさんの素敵な女性たちが内職のパートとして働いています。その数50名以上
八割以上が主婦の方で、みなゼロから『soil職人』へと育っていきます。

パートさんと言っても侮るなかれ。
ものづくりに取り組む女性たちの真摯な表情は、今まで見てきた職人さん達となんら変わりませんでした。

そんな女性職人さん達にインタビューをさせて頂きました。

 

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なぜ、このsoilの工房で働くことにしたのですか?

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もともとものづくりが好きだったので、自分が作る側になれるならと思って応募しました。それまではコールセンターで働いていたけど、好きなことができる今のほうがとても充実しています。

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とてもではないけど、簡単そうには見えないです。どのように技術を習得したんですか?

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最初のうちは失敗ばかりで大変なことが多かったです。でも、先輩の作業を見よう見まねで試行錯誤し、1年くらいで失敗なく製品を作れるようになりました。

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やりがいのあるお仕事ですよね。ズバリここで働く魅力って何でしょう?

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ひとつのsoil製品の製作に最初から最後まで携われるのが魅力の一つですよね。自分が作ったモノが実際に市場に出て、誰かが使っていると思うと嬉しいですよ。

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ここで働いて、生活は何か変わりましたか?

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自分が作り手になったことで、世の中の製品の『できかた』に興味が増してきました。普段からこれはどのように出来ているのかを考えるようになりましたね。

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この工房内では皆さん充実したsoilライフを送っているみたいですね!
勤務歴が長い人もたくさんいて、中には6年以上にもなる方もいるそうです。
ひとつの作業だけに限定すれば、左官職人さんより上手い人もいるみたいなので、さらに驚きです。

慣れた手つきで、次々とsoilのプロダクトがテンポ良く産み出されていて、皆さんの真剣な表情も去ることながら、珪藻土を扱う光景は、楽しそうにも映りました。

 

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大人気商品、soilの今後の展望はいかに?

現在知名度急上昇中のsoil。今後の展望を聞くと、代表の石動さんはもうすでに次のステップを見据えていました。

「今となっては、soilからお客様に左官の技術を知って頂き、左官工事にまでつながれば良いなと思っています。現実はまだまだ厳しいです笑」

「soilというブランド名が徐々に知られてきたので、珪藻土素材のキッチン・バスグッズは結構市場に出尽くしている感じがあります。なので今後は、珪藻土素材ではなくても、他の素材で商品を出せる道はないか?左官の技術で他に出せる道がないか?この2つの道で岐路にあって、名児耶さんと一緒に悩んでいるところです。」

「店舗も出そうなんて言ってるんですけどねぇ……。」

イスルギとsoilの挑戦は続きます。

アイディアを振り絞り、あるものを組み合わせ、ずっと挑戦し続けることがどんな商売の宿命でもあります。
きっと、そのゴールの見えないフルマラソンを走り切った後には、走り切った人にしか体験できない達成感があるんだと思います。


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大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。http://www.brightlogg.com/