関東有数の焼きものの町、栃木県の益子町。

その旧商店街を奥まで進み、細い路地を一本入ると、蔦のからまるひときわ大きな建物が姿を現します。

アンティーク家具と生活用品のお店『pejite(ペジテ)』。ここは、同じく益子の町で『仁平古家具店』を営む仁平透さんが、2014年に始めたセレクトショップです。

足を踏み入れた瞬間、思わず背筋がぴんとするような洗練された空間。
そこに置かれている古家具や生活用品の一つひとつの物語とじっくり向き合えるような、静かな時が流れています。

 

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「pejite(ペジテ)さんに置いてあると、同じモノでもよりいっそう洗練されて見えるんです」お店を紹介してくださった地元の方のお墨付きです。訪れるもの誰もが、その世界観に心を奪われます。

突然にも関わらず取材のお願いをしたところ店主の仁平さん自ら応じてくださいました。

つくりの良い、日本のモノを届けたい

山越:pejite(ペジテ)をはじめたきっかけはなんだったのですか?

仁平さん:もともと日本のつくりの良いモノが好きだったんです。明治や大正時代などにつくられた家具は、見た目こそ古いかもしれませんが、『今だったら同じようにつくれる人はいないんじゃないかな?』と思うほど、かなり精密にできているんですよね。量産品ではなく、こだわってつくられたモノの良さを伝えたいと思ったのが、pejite(ペジテ)の母体となっている「仁平古家具店」を始めたのきっかけです。今は、ネットオークションでも高値でアンティーク家具が取引されている時代。そういったつくりの良いモノが見直されつつあることを実感しています。

 

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山越:確かに、職人さんが手仕事でつくったからこそ、機械での大量生産では再現できないこだわりが随所に感じられますよね。

仁平さん:ペジテには、仁平古家具店で取り扱っているモノのなかでも、特に質の良い家具を厳選して並べています。益子焼の陶器などを展示している棚自体なども、すべてが購入可能なんですよ。

山越:この洗練された雰囲気は、空間を創る商品の質の良さからも生まれているものなのですね。ところで、このお店の建物は何かの跡地とかなのでしょうか?天井が高いですよね。

仁平さん:もともと、ここは使われなくなった米蔵だったんです。築60年にもなるのですが、栃木県の名産である“大谷石”でつくられているんです。こんな良い物件をそのままにしておくのはもったいないと思ったのも、ペジテをオープンしたいきさつだったりします。

ちなみに、大谷石は、栃木県の大谷地区で採掘される火山灰から出来た凝灰岩(ぎょうかいがん)の一種。耐火・耐震・防湿に優れ、マイナスイオンや遠赤外線を多く放出します。古くから大規模にこの凝灰岩の採掘が行われてきた場所は世界的にも貴重で、大正時代に建てられた旧帝国ホテルに使用されたことでも有名です。

山越:大谷石の質感がところどころに見える壁も素敵ですね。こんなに広い空間を維持するのは大変なんじゃないですか?

 

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都会ではできないことが地方ではできる

仁平さん:実は、それへの回答が田舎でお店をやる良さなのですが、例えば東京の青山などに同じような空間を持とうとすると、ここの何十倍もの予算が必要になってきます。でも、ここならそもそも不要になった建物を活かしているので、大家さんからも格安で借りられているんですよ。

 

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山越:田舎だからこその特権ということなんですね。

仁平さん:都会でお店をやると、家賃を稼ぐことに精一杯になってしまって、オープンした当初の本来の目的を見失ってしまいがちです。それよりも、こうしてゆったりとした時間の中で、大事なものを見失わず、ひっそりとお店を営んでいくほうが、私にはしっくりきています。来てくださった方にも、その空気を味わってほしいです。

山越:確かにそうかもしれないですね…東京だと、これほど静かで落ち着ける場所はなかなかないですよね。流れている時間が全然違います。でも、失礼なこと聞いてすみません…こんなひっそりとした場所にお客さんはいらっしゃるのでしょうか…?

仁平さん:人の目につくから来てもらえるのではなく、ここを目的地としてくれるような空間にしたいと思っています。だから、今は過剰に広報をしたりもしていません。それでも、実際に東京からここを目指して来てくださる方も多く、それがすごくうれしいです。

 

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山越:目的地となる場所…。そういう場所が町にひとつあるだけで、周辺の活性化にも大きく影響を与えることができますよね。最近そういった事例をいくつか耳にしたことがあります。若い方もお客さんには多いですか?

仁平さん:そうですね。最近では20代30代の方も骨董品や伝統的な技法でつくられた製品など、日本のものづくりに対する関心が高いように思います。

山越:私もそれはすごく感じます!だからこそ、もっとたくさんの現場と消費者をセコリ百景でもつなげていきたいなって。故郷の栃木に仁平さんのような方がいらっしゃると、すごく刺激になります。

仁平さん:先ほどの話にもありましたが、田舎だからこそ、たった1軒の店がその地域全体に貢献できる力は大きいと思うんです。とはいえ僕自身、若い頃はとにかく田舎が嫌いで……(笑)一時は東京に出て暮らしていたんですよ。

山越:私もとにかく東京に出なきゃ!という気持ちが幼いころからずっとありました(笑)緑に囲まれた実家の環境も好きだけど、まずは日本の中心でいろんなものを体感したいと思っていました。ですが、仁平さんのお話を伺って、洗練された空間や人が集まる場所=東京という考えは、いつまでも続かないのではないかなと思いました。

 

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地方もなかなかいいですよ?

仁平さん:栃木県は、最近若い人が地元を見直しつつあって、素敵なお店や取り組みが活性化してきているので、面白いですよ。私の場合、もともとは訳あって地元に帰ってこなければならなくなってしまったのがきっかけでしたが、先ほどもお話したように田舎だからこその強みを知ることができて、今はここでの生活が最高だと思っています。

山越:東京じゃなきゃできない、なんてことはもしかしたらないのかもしれませんね。ペジテさんのこの素敵な空間が、なにより実証しているように思います。

 

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その土地に生きる人の雰囲気や街の息づかいは、やっぱり現地に足を運ばないと経験することはできません。

pejite(ペジテ)さんのように「目的地となる空間」がもっともっと増えて、そこが地方のモノづくりの発信基地となり、日本全体が活性化していく…。

そんな未来像を頭に描くことができたインタビューでした。
こうした人たちと、どんどん面白い取り組みを考えていけたらいいな。
そのためには私ももっともっと頑張らなきゃ。

凛とした空気の漂う店内で、また気が引き締まったのでした。

店舗情報

pejite :栃木県芳賀郡益子町益子973-6
営業時間:11:00~18:00/ 定休日:木曜


作者情報(一覧を見る)
shiori
山越 栞

フリーランスライター・編集者
「日本のかっこいいところを見つけて、もっと多くの人に伝えたい」そんな想いで執筆・編集などに携わる。10代から始めた茶道は現在も勉強中。