カタカタカタ・・・

耳をよーく澄ますと、聞こえてくる機械の繊細な足音。

ゆったりと時を歩むような吊り編み機の足音は、ついつい頑張れ!と声を掛けたくなるような気さえします。

1時間に1メートルを編み出すこの機械。1日稼働させたとしても、ほんの10メートルにしかなりません。

「今の時代にそんな非効率なことがあるのか?」
そんな声が聞こえてきそうですが、この機械をあえて使用するには理由があります。

この”吊り編み機”と呼ばれる機械でモノづくりを続ける和歌山県の和田メリヤスさんのファクトリーブランドをご紹介します。

top02【ショップに堂々と展示される吊り編み機】

生産性よりも大切なもの

日本での編み物の歴史は織り物のそれに比べると浅く、吊り編み機が和歌山に持ち込まれたのが1907年、明治時代の終わりごろ。
社名にもあるメリヤスですが、皆さんはこの単語の由来をご存知ですか?

メリヤスは、ポルトガル語のmeiasやスペイン語のmedhiasが語源で、元々は「靴下」を意味します。
編むことによって作られた素材をニットと言いますが、昔はニットとは呼ばず、メリヤスが一般的には編みを意味する言葉でした。当時メリヤスの主流は肌着や靴下でした。その後、一般的な衣料にもこの編みが使用される様になり、メリヤスからニットへと呼び方も移り変わっていきます。

ジャージも、このニットの編み方の一つでジャージー編みが語源です。

和歌山に拠点を構える和田メリヤスさん。
ファクトリーブランドと呼ばれる言葉が、未だ世間ではあまり知られていない15年以上も前から、ニットブランド「WORK-ER」の構想を温めていたと言います。

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和田メリヤス株式会社の現在の社長である和田安史さんは、2代目にあたります。

昭和当時、高速のシンカ―と呼ばれる大量生産向きの編み機が登場します。
国内の工場が次々とそのシンカーに乗り換える中、和田さんは逆に周りから、タダの様な金額でこの吊り編み機と呼ばれる、いわばレガシーな機械を買い集めます。

_MG_0591【IID 世田谷ものづくり学校内にあるWORK-ERオンリーショップ】

生産効率面では実に数十倍にもなると言われる高速シンカ―よりも、自分達が使用して来た吊り編み機に勝機を見い出し、全国からわざわざ買い集める、この経営判断には驚かされます。

そんな和田さんの英断によって撒かれた種が、現在の和田メリヤスにおける他社では再現の出来ない強みとなり、見事に花を咲かせています。

なんと、国内でこの吊り編み機を専門として動かす工場はわずか2社しかなく、もう1社も同じ和歌山県内に存在するそうです。

今となっては世界中を探しても、現役で動くこの吊り編み機を見る事ができること自体が極めて貴重だそうです。

そんな機械を使用し、和田メリヤスさんはいったいどんなモノづくりをしているのでしょうか?

和歌山ファクトリーブランドの誕生

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和田メリヤスさんのファクトリーブランドが誕生したのは今からおよそ3年前。

それ以前は、通常のアパレル企業から依頼された生地を生産する下請け工場でした。

そんな中、社長の和田さんは「消費者と自分達の間に中間業者が沢山入ることが無ければ安くて良いものを消費者まで届ける事ができるな」と考えていて、当時から自社でブランドを作り上げる事に可能性を見出していた様です。

それに加えて、工場の見学にも従来からオープンな姿勢を貫いていて、そんな姿勢がある時、和田メリヤスと今回ご紹介するブランドの当時のデザイナーさんを繋ぎます。

突然のデザイナーさんの工場見学がきっかけとなり、とんとん拍子で話が進み、ファクトリーブランドであるWORK-ERが立ち上がります。

自然な流れの様ですが、和田さん自身の考え方や、本来閉鎖的でもなんら差し支えのない工場をオープンにしていたことが、和田メリヤスの未来を切り開いたとも言えます。

仕事人をテーマに。ファクトリーブランドWORK-ER

記念すべきファクトリーブランドの第一弾。
デザイナーさんとの打ち合わせも進み初めてから、実際にブランドがコレクションを発表するまで、実に1年をまるまる費やしたそうです。

そんなWORK-ERのブランドとしての最大のテーマは”仕事”です。

過去の二回の発表はそれぞれテーマが決められていて、一回目のテーマは「工場の工員さん=ニッターさん」
これは、まずは実際に自分達が着ることの出来るものを作ろう、と決定したそうです。

※ニットに関わる人を全般にニッターと呼ぶ

細部にも実際に工員さんが使用し、かゆいところに手が届く工夫や、吊り編み工場からインスパイアされたデザインが散りばめられています。

「現場の工場の方々も実際に着ているんですか?」との僕の問いに、「はい。実際に着ています。ですが、工場ではどうしても汚れてしまうため『もったいなくて着れない』なんて意見が多いです。ご家族に気に入られて、いつの間にか取られてしまうことも多い様ですよ」と話す、ブランドの生産管理担当の萬川さん。

WORK-ERのプロダクトは特筆すべきポイントが沢山あるのですが、今回はその中から少しご紹介させて頂きます。

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例えば、このボタン。
これは実際に吊り編み機で使用するネジです。
ボタンになる様に加工をし、仕上げています。

「ただでさえ今では希少な機械の部品なのに、これが無くなったらどうするんですか?」
と聞くと、「たくさん工場にストックしてあるので、簡単にはなくなりません」と萬川さん。

でも、このボタンは人気が出ればきっと無くなってしまいそうです(笑)

縫製においても、この生地の厚みを正確に縫製出来る工場を当時のデザイナーさんやパタンナーさんが探し回ったとか。
現在依頼している、やっと見つけた縫製工場さんにも、「針が折れちゃうよ」と言われてしまうそうです。
といいつつも、お見事。とてもきれいに縫製されていて、職人魂を感じます。

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そして極め付けに、この深く美しいカラーバリエーションはまさか・・・

そうです。こちらは本藍による染色です。

兼ねてからお付き合いのある、和歌山県内で古来からの技法によるナチュラルな藍染めを行う作家さんの元で製品染めを施しています。

薄い方は5回程度、濃い方は10回程度、繰り返し繰り返し染めてこの美しい日本古来の発色を引き出します。

こんなこだわりの製品に藍染めなんて、とても贅沢に感じます。

そして、第二回目のコレクションのテーマは”保育士さん”。

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意外なテーマですが、これも女性デザイナーさんならではの視点。工員さんテーマのコレクションにも言えますが、都会的にまとめられていて、普段着としても男性が身に着けても、全く差し支えないデザインです。

このデザイナーさんは実際に、ご自身が卒業された保育園までいき、保育士さんの動きまで研究したそうです。

このコレクションではTシャツやパンツ、シャツ等、ベーシックなラインも豊富にそろっています。

その中でも例えばこのTシャツ。

こちらも自慢の吊り編み機で編んだ、まるで空気ごと編み込んだ様な優しい風合いが特徴的です。

実際に触れてみると柔らかくも、とてもさらりとしていて、不思議で気持ちの良い肌触り。酷暑にも重宝しそうです。

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このTシャツにも、シカケが満載。
通常、普通のTシャツは数回洗濯をすると糸自身の撚れ(よれ)によって生地が少し斜めがかり歪んできます。
しかしこのWORK-ERのTシャツは異なる方向に撚った(よった)糸を交互に使用することにより、繰り返しの洗濯で発生するこの斜行(しゃこう)と呼ばれる現象を防止しています。
何回洗っても本来の美しい形を保つための、細やかな工夫です。
_MG_9455【これは和田メリヤスさんにしか出来ない編み方。社長自らが機械を改良して出来上がる】

_MG_9385【超極細の200番手の糸で編んだストール。1日10メートルの早さでコツコツ編みます。】

_MG_9477【2014年のグッドデザイン賞を受賞した、スヌード型のタオル】

百聞は一見に如かず

WORK-ERブランドの魅力は枚挙に暇がありません。
ニットのやわらかい特性を活かしたそれぞれのプロダクトに、徹底したこだわりがあります。
そのひとつひとつを手に触れて感じる事が出来るのが、この世田谷ものづくり学校内にあるオンリーショップです。

和田メリヤスの職人さんの手によって息を吹き込まれた吊り編み機は、高速のシンカーの弱点をものの見事にカバーし、自らの強みに特化していて、ムーブメントとなりつつある、大量消費を見直す動きであったり、顔の見えるプロダクトを持つことに価値を感じる人が増えたり…そんな社会の動向を予測して待っていたかの様です。

今後、この吊り編み機から生み出されるプロダクトから目が離せません。

次回は、和歌山の工場までお邪魔させて頂き、この和田メリヤスさんの工場の魅力、吊り編み機の他には出せない魅力のお話をより詳しくお伝えできればと思っています!

 

店舗情報

WORK-ER ショールーム

〒154-0001 東京都世田谷区池尻2-4-5
IID世田谷ものづくり学校内111
111 IKEJIRI INSTITUTE OF DESIGN (IID),
2-4-5 Ikejiri, Setagayaku, Tokyo 154-0001

tel:03-5787-6405  fax:03-6369-3465
水~日  11:00~19:00


作者情報(一覧を見る)
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大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。