経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、経済発展を進めるうえで非効率な方法から効率的な方法へと変革することを「創造的破壊」と名付け、持続的な成長を促すために新陳代謝が重要であることを説いた。かつて日本国内の経済が潤滑に回っていた時代は、毎日のように新たな工法、図柄、素材、工作機が産地で生み出され、目の肥えた消費者たちを唸らせる工芸品が続々と生産されていたと聞く。あれこれと注文される挑戦的な課題を、職人が悩みながらも楽しんで制作していた風景が目に浮かぶようだ。しかし、いつしかその熱気も収まり、工芸品に「伝統」という冠がつくようになった頃、現在のように毎日変わらぬ手仕事を繰り返す職人のイメージが定着していった。そうした、つくられた職人像を覆す、若いブランド「まり木綿」が名古屋市有松に店を構えて5年が経つ。

IMG_2510【まり木綿のお店にはカラフルな手ぬぐいが並ぶ】

「有松・鳴海絞り」は愛知県で最初に伝統工芸認定され、この地で400年以上もの間、国内外の絞り染めファンを魅了している。その有松でひときわカラフルな色彩とポップな柄が目立つのが、村口実梨(まり)さんと伊藤木綿(ゆう)さんによるブランド「まり木綿」だ。彼女たちは、名古屋芸術大学のテキスタイルコース在籍時に、SOU・SOUデザイナーの若林剛之さんを講師に迎えた地場産業との連携プロジェクトで有松絞りに出会う。繊細な柄が特徴的な「絞り染め」だが、初めて挑戦する彼女たちが制作したものは、布を折りたたんで染色するシンプルなものだった。繰り返される単純な図案が色彩を引き立て、色と畳み方の組み合わせ次第で様々な柄のテキスタイルを生み出すことができたことに楽しみを覚えたいう。繊細な柄の美しさを追求して熟練の技を要したこれまでの有松絞りとは異なる角度からアプローチをした彼女たちの作品は、高い評価を得た。

R0018461【観音畳みした手ぬぐいを染めている様子】

授業で高評価を得たからといって、自身のブランドを持つことに直結することはあまり多くはないだろう。しかし、まり木綿はSOU・SOUのプロデュースと有松で100年絞り染色事業を行う「有限会社 絞染色久野染工場」のサポートを得て、卒業と同時に有松で店舗を構え、久野染工場内の工房で制作を始めた。「まり木綿」の手ぬぐいは、4代目と5代目からの技術や素材に関するサポートを受け、現在は素材に伊勢木綿を、染料は反応染料を用いている。糸のよりがゆるい伊勢木綿は染料が繊維の奥まで入りやすく、きれいに発色するのだ。また、使い込むにつれて繊維が少しずつほぐれていき、使い込むと風合いが良くなっていくことが特徴といえる。プリントに比べて堅牢性が高く断然色落ちがしないため、普段使いに優れた人気商品だ。

IMG_2501【染まり具合を確認しながら洗いをかける伊藤さん】

「まり木綿」は、折りたたんで染色する伝統的な技法を用いながらも鮮やかな色彩を用いることで新たな絞り染めのイメージを作り出すことに成功した。ブランドの躍進はまちにも影響を与え、カラフルな商品が有松の店先にも並ぶようになっているが、自分たちでつくり続けられる持続的なものづくりに磨きをかける「まり木綿」はその中でも頭ひとつ抜きに出ている。かつてこのまちで職人たちが切磋琢磨し合い、新たな商品をつくり続けていたように、若いブランドが持つ力がまちの盛り上がりを引き出しているようだ。催事など外部出展の機会も増えている「まり木綿」だが、商品を手にとった人にはぜひ店舗、そして有松を訪れていただきたい。職人とデザイナーの間で進化し続ける「まり木綿」を感じるだけでなく、産地が持つ魅力も同時に感じることができるだろう。


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翔浅野
浅野 翔

1987年生まれ、デザインリサーチャー。2014年 京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 デザイン経営工学専攻 修了。同年、名古屋を拠点に、デザインリサーチャー、サービスデザイナーとして領域横断するプロジェクトのディレクターを務める。

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