前編では、革の文化やフリーハンドを率いる藤田さんの考える、「良い革製品の見分け方」をご紹介しました。
この後編ではいよいよフリーハンドさんのものづくりの核心にフォーカスします!

前編URL:http://secori-hyakkei.com//?p=953

長い旅を経てつくられる最高の革

FREE HAND(フリーハンド)が商品に使用するレザーは、栃木レザーという専門業者で作っている、タンニン鞣し(なめし)の革。

そのままでは腐敗してしまう皮をタンニンで鞣すことによって、堅牢度(けんろうど=張りや腰、硬さ)が高くなります。

FREE HANDでは現在国内で作れる中でも、かなり濃度の高い=硬い革を使っています。

大きなプールでのタンニン染めができるのは、現在日本では栃木レザーのみです。
この方法で鞣すと、一連の工程を終わらせるのに約5週間もの時間がかかってしまうそうです。

_MG_8220【バッグも手縫いを施し、通常ミシンでは針が通らない箇所までていねいに縫製されています】

タンニン鞣しは、タンニンの液が入ったプールのような水槽に皮を浸けることによって加工していきます。
まずは、タンニンが3%ぐらいのプールに浸し、ハンモックのようなものに皮を載せて揺らします。その後1日~2日ぐらいかけて、タンニンの溶液を皮にしっかり含ませたあとに乾燥。3%→5%→7%→10%と徐々に溶液の濃度を上げながら、この工程を繰り返します。

こうしてできたこだわりの素材に、FREE HANDのクラフトマンシップが吹き込まれていきます。

デザインはシンプルであるということ

FREE HANDには過度な装飾を施す商品は存在しません。
極めてシンプルな商品達。

「作り手が、最高品質の素材を目の前にして、何を作るかを決めるとき、素材が良ければ良いほど、デザインはシンプルになっていきます。例えば、シーアイランドのトリプルAランクの綿生地を見たデザイナーは、必然的に最もオーソドックスなYシャツやブラウスを作りたいと思うはずです。
なぜかというと、素材の良さを伝えようとすると、目を引くようなデザインはその妨害になりかねないからです。画期的で独創的なデザインのものであれば、それ自体が評価の要になり、レーヨンであろうと綿であろうと素材への注目度は下がってしまいます」と藤田さんは話します。

世の中のあらゆる職人達にとって、”シンプルに作る”ことほど、難しいことはないそうです。

「ベーシックであればあるほど、ごまかしがきかない。素人目にも技術の巧拙が容易に見抜けてしまう。フレンチのシェフは『コンソメスープ』作りが1番緊張すると言うし、『もりそば』や『かけうどん』に至っては語る必要もないでしょう」

「最近は『職人』を打ち出したメーカーが増えています。ただ、私は量産するものに、良いものはないと思うんです」革の世界では、1点ごとに素材にあった作りで最終製品まで作り込む必要があると考えているため、製造工程を標準化して、最高の品質を生み出すことは、事実上不可能です」

職人ってなんだろう……。
ここへきて、ふとそんな素朴な疑問が湧いてきました。

藤田さんの考える革職人とは

「素材に対して、最初から最後まで責任を持っている人は職人といえます」

革を広げて、この革で何ができるかを考えられる人。抜き刃を使わず、広げた皮から最適な場所を選び出す。人間の皮膚にも伸びる方向がある様に、牛にもそれがあるからです。

これを適切に見抜くことができるかどうか。

_MG_5391

革には”目”もあり、伸びやすい方向が場所によって変わってきます。
例えば皆さんの着けているベルトでも、この目を見切ることができないまま作ってしまうと変によじれたり、伸びたりしてしまいます。

「バッグの底やストラップも同じで、伸びる方向に切ってはいけません」

_MG_5421【OEMで使用していた抜き刃】

通常の革製品の製作工程では、1枚の大きな革に上の様な抜き刃を使用して作ります。

しかし”革の目”を見極め、良いモノを作ろうと思えば、抜き刃を使用することはできません。
そこでFREEHANDでは基本的に手断ちをしています。

「革製品はパーツが少なければ少ないほど良いと考えています。のりあわせすると、必ずのりが剥がれるので、ゴムのりも使用しません。繰り返しになりますが、職人とは、ただ作業をする人を呼ぶのではないと思います。革の職人の場合は、1枚の革を見てどの部分を使用して、何をどう作るかーそこまで考えることができないと職人とは言えません」

江戸っ子のクラフトマンシップは硬く、折れることがありません。

FREE HANDが革製品で後世に残したい価値観

「FREE HANDの特徴や強みって何でしょう?」

「うーん…そのように聞かれるとこだわりはないですねえ。無農薬野菜の生産者と近いのかも知れません」

「お米でも野菜でも昔から、自然につくってきた植物との交わり方があります。経済優先の世界になってきたときに、農薬を使い、効率を優先していた。しかし、その農薬は健康にも悪く、ふりだしに戻って無農薬が見直されてきました。しかしその頃でも、無農薬で手間を掛けて作っていた人がいるはず。無農薬がブームになったときでも、昔から頑なに無農薬で作り続けてきた人は、逆にブームには乗れなかったりしますよね? だって、その人にとっては、それまで当然にしてきたことなんですから」

手間ひまのかかった職人仕事には、つい「こだわりの」と枕詞をつけたくなってしまいますが、藤田さんにとってのそれは、良いものを作るために、当たり前のことを当たり前にやってきたということ、これからもやり続けることに他ならないのです。
_MG_5584【経年変化した革製品。同じものには到底思えません】

「良い鞄=長く使える丈夫な鞄」 という視点

「良いモノを使い、自分と一緒に育て、大切にして行く価値観を大事にしたいし、伝えていきたいと思っています」

ここまで来れば読者の皆さんも分かるはずです。
なぜFREE HANDがオリジナルのオイルレザーを扱うのか。

「装飾品としてのBAGではなく、道具として使われる革製品においては、堅牢さと、使い続けても飽きのこない革の変化の美しさが最も重要な要素。この2点を同時に兼ね備えた唯一無二の革が、こだわりつくされたオイルレザーなんです」

これが答えです。

「オイルレザーの商品は、かわいがれば応えてくれる。磨けば綺麗になるし、年々味が出てきます。しっかりメンテナンスをしてあげれば、何十年も軽く持つのです。人生を共に歩んでゆく道具=モノも、自分と一緒に成長していけば、自然に愛着も湧いてくるはずです」

「この価値観が今の日本の消費者には足りないと感じますし、モノを買い使えなくなれば捨てて、新しいものを買う習慣は少し寂しく感じます」

藤田さんは、男の人は鞄であれば生涯5個、靴も生涯5個で済むと考えているそうです。

「自分が60歳70歳になったときに、奥さんと出会ったころから履いていた靴がそこにあったら素敵だと思います。自分のおばあちゃんやおじいちゃんが使っていたバッグがそこに存在すれば、それはまた感慨深いものだし、その様な感情って、変化の多い今の時代にこそ大事な価値観なのではないでしょうか」

魂の宿る革製品

今日も、近隣の音大生や美大生が先輩からの口コミを元に、FREE HANDへとやって来ます。

FREE HANDの常連のお客さんの中には、過去に購入し、自分で大切に育ててきたオイルレザーの商品を見せ合い、その「味」を競い合う方もいるそうです。
_MG_5613

良いものを長く愛する。

社会の万物が流れゆく中、ふとずっと一緒にいるヒトやモノ。
その存在感に感じる愛着は言葉では言い表すことができないかも知れません。

革製品のみの話に限らず、現代の日本人がどこかに置き忘れてきてしまったようにも思える”もったいない精神”
豊かな自然に恵まれていると同時に、資源小国でもあるこの国では、古くから「物にも魂が宿る」と考えられてきました。

買っては捨てる、飽きたら新しいものを買う、これが当たり前の超高速型消費社会で、魂を込めたものづくりを続ける人たち。

使い手が大切に扱うことで、魂の宿るような確かな存在感を放つものたち。

そんなものづくりをセコリ百景ではもっと紹介していければと思います。


作者情報(一覧を見る)
otaki
大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。