『もともと、ブランドをつくろうと考えていた訳ではないんです。』

ミニマルで洗練されたデザイン。一見すればトートーニーと分かる個性の強い製品。

相反する要素ですが、この二つが絶妙に融合した革小物の数々を販売する、ブランド「トートーニー」の神田沙耶香さん。

ブランドをつくろうと意気込んで製作を始めたのではないにしても、自分の製品でしっかりと生計を立てている神田さんには、しっかりとしたものづくりに対しての考え方の”型”を感じました。

今回はそんな神田さんの”型”を紐解いていきます。
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ちょうど良いサイズの靴がない

高校生のころファッションに興味を持ちはじめ、雑誌に掲載されているような靴を履きたくても、合うサイズの靴がない日々。

短大で木材工芸を学んでいましたが、すきなデザインの靴がないストレスは解決されないままだったため、卒業後は木工関係で仕事をさがすことはせず、靴作りについて学ぶことに。

どのような人の下で学ぶのが良いか、興味のある靴の学校や店舗を訪ね、短大卒業から一年後上京します。

量産されている靴、手縫い靴など、製靴に関することを学んだ後はフィッティング販売、問屋、修理など靴の各流通分野に携わり、10年ほどはものづくりに近い所に居ながらも、自身でつくることからは離れていました。

そして4年前、「靴づくりをもう一度勉強しよう」と、木型や型紙など設計部分を学べる学校へ通いはじめます。

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一枚革のスリッパ

トートーニーで最も人気のある商品でもある、革のスリッパ。

このプロダクトの生まれるきっかけは、とある「縁」でした。

知人の「革でこんなスリッパつくれない?」という依頼からはじまりました。
当初販売予定はありませんでしたが、学校で平面から立体にする靴の型紙の面白さに惹かれはじめていたこともあり、スリッパ製作は夢中になり納得できるかたちになるまで30足ほどの試行錯誤を重ねたそうです。

一枚の革を、一カ所だけ縫い合わせるスリッパですが、中心線を基軸にした3辺のカーブの描き方が重要です。
中心線がずれた状態で製品を作ってしまうと、歩いたときスリッパがずれて履き心地が良くないためです。
シンプルなだけにカーブの描き方も大切で、外側のカーブで製品の見た目、履き口(足の甲部分)のカーブとつま先からの距離で履きやすさが変わるそうです。

誰も普段中心線などを気にしてスリッパや靴を履いたことなんてあまりないですよね?
そんな問いかけに『履く人はそんなこと気にする必要ないと思います。つくり手が考えることなので』と神田さんは答えます。

スリッパ完成後、アルバイト先の近所のショップのみなさんが開催した青空マーケットに出品。
そこに偶然居合わせた雑貨屋さんの目に留まり、お店で販売してもらえることになります。

トートーニーの製品は、企画、設計、型紙作成、サンプル製作を神田さんがアトリエで行い、量産品は職人さんに発注しています。
職人さんは裁断・押印・縫製の各工程で異なります。
生産をお願いしている職人さん達は、3年前からのお付き合いで、なんと縫製職人さんは14年前におなじ夜間講座を受けていた方だそう。

数々の出逢いが重なり、トートーニーはブランドとしてゆっくりと形作られています。
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現在スリッパは8色展開ですが、販売当初は4色だけでした。

5人家族のお客さまから「家族で使うとわからなくなるからもう少し色が欲しい」と、徐々に色が増えていきます。

_MG_8498【目を惹くカラフルスリッパ。沢山の色が欲しくなります】

 

スリッパ以外のトートーニーの製品においても、デザイン・パターン・試作・革の仕入れなどを神田さんが行い、縫製と箔押しをする人、裁断をする人のチームワークによる作品集です。

 

預かりもの

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革という素材は、食肉の副産物で、様々な工程を経て皮から革へと鞣され、鞄やベルト、財布など製品として加工できる素材になります。

神田さんはブランド立ち上げから3年間、仕入れ、工程毎の検品、販売をする中で、製品を「預かりもの」として捉えています。

『いつどんな方へ届くかは分からないので、気に入ってくださる方と製品が出会うまでの預かりものだと思っています。
職人さんに一つ一つを丁寧につくってもらい、それをきちんと扱うことは日常です。そういう姿勢が製品に反映され、説明しなくても直感的に伝わるものづくりができたらいいなと思います。』

こうして考えてみると、素材や前の工程に対して、謙虚にならざるを得ないと感じてしまいます。

つかう人もつくる人も、自分の身の回りの製品の素材がどのような工程を経て今手元にあるのかを改めて考えてみたいものです。

海外へと目を向けたい

 

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神田さんは、2014年に参加したアメリカ合衆国ニューヨーク州ブルックリン区の展示会で、「Your job is beautiful.」と言われたとき、自分を褒められたというより、信頼する職人さんに作っていただいていることから、携わってくださる方々の仕事を褒めてもらった気持ちになったそうです。

『自分がわくわくするような、おもしろいと感じるものがつくれて、それが日本だけでなく、異文化圏の方がどう感じてくださるかとても興味があります。』

神田さんの未知の世界への挑戦はこれからが本番です。

それからもうひとつ、当初からつくりたいものの一つである、靴。

靴の場合は、部品やパーツ、製品サイズ、工程も増えるため課題がたくさんあり、販売するところまではできていないため、今後は少しずつ形にしていきたいそうです。

集中空間→人が絶えず訪れる空間での変化

_MG_8521【新アトリエショップではゆっくりとトートーニーの商品に触れることが可能です】

『一番ちがうことは、様々な方がご来店になることですね。以前のアトリエは3階で、一般の方がいらっしゃることは少なかったですが、移転先は一階なので様々な方が訪れます。「革漉き(かわすき)できますか?」「毛皮を縫えますか?」など、移転当初は全く予想していなかった相談をされることもありました。』

そんな突然のことに、あの時は断ってしまったけど、何か工夫で出来たかな・・・と話す、思いやりのある神田さん。
今はこの場所で多くの人に出会うことをとても楽しんでいるようです。

様々な人とコミュニケーションすることにより、たくさんの意見や価値が吸収され、今までとはまた違うものづくりが出来るかもしれません。

新商品も着々と準備が進み、またひとつ世に送り出されようとしています。


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大滝 洋之

Brightlogg,Inc.代表
歴史と伝統に敬意をはらい、ものづくりを現代の価値観で再解釈し、未来に繋げることを目指す。都内を中心に全国を巡りセコリ百景を運営する。http://www.brightlogg.com/